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家庭教師情報屋折原臨也4

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 学校を出て二十分。静雄は傘も差さずふらふらと街中を歩いた。雨の冷たさに頭が冷まされたが、さらに心も体も冷めていくようだった。こんな天気でも、こんな時間でも、中心街は相変わらず人の波があった。道行く人は静雄に奇異な視線を送るが、彼を避け、我関せずと過ぎ去っていった。
「……」
静雄の心の中は、あのシャープペンを折ってしまった自分に対する後悔ばかりが渦巻いていた。どこにでも市販されているただのシャープペンだが、あれは、幽が受験の応援として贈ってくれたものであった。見えない価値がついていた。だが、自分がここまで落ち込むとは思ってもいなかった。
 気がつけば公園まで来ていた。静雄はふらりと中に入り、濡れて色濃くなったベンチに腰をかけた。公園に立ち寄っている者は誰もいなかった。
――― 幽、ごめん…
俯けば、髪から滴が絶え間なく伝い落ちていき、砂に混ざっていった。完全に制服は濡れ、雨粒が背中を打つのが感じられた。
 しかしそれは不意に地面が少し陰ったと同時に止まった。
「静雄君?」
「……?」
名前を呼ばれ顔を上げると、臨也が立っていた。相変わらずのフードのついた黒いジャケットを羽織った格好で、ジーンズの裾が少し濡れていた。手にしている黒い傘は傾けられ、自分がぬれるのにもかかわらず静雄を雨から守っていた。
「傘も差さずに何してるの?」
「別に…濡れるからいい」
静雄は再度俯いて答えた。その声に力は無かった。何かあったのは確実だ。そう思い、臨也は傘を静雄に向けて傾けたまま、携帯電話を開いた。
 ――― 丁度終わったし、この後もしばらくは予定ないし
臨也は携帯をポケットに戻し、静雄に話しかけた。
「家の鍵持ってる?」
静雄は一つ頷いた。
「とりあえず家に帰ろうか」
「……」
臨也は静雄の手を引き、今更ともいえるが傘の中に入れ、歩き始めた。



   *  *  *



 静雄から鍵を借り、臨也はドアを開けた。
 室内は真っ暗で、人の気配はしなかった。それでも、外気よりは少し暖かかった。
「親はいないみたいだね」
「…今日は仕事でいない」
そう小さく言って、静雄は靴を脱ぎ、ふらふらと自分の部屋へと向かった。しかし臨也はその腕を掴み、洗面所の方へと引っ張った。
「とりあえず温まっておいで」
「……」
そう言われ、静雄は誘導されるままに洗面所に入った。静雄は制服を脱ぎ下着を脱ぎ、風呂場へ入った。
「服は適当に選んでおけばいい?」
それに対し返事はなかった。
 臨也は静雄の部屋に入り、適当に服を見繕って、風呂場に入ったのを見計らって洗面所の方に置いておいた。
 リビングに入りキッチンに立つとココアやコーヒーの瓶が目につき、勝手だが淹れることにした。コートを脱いでダイニングの椅子に掛けさせてもらい、キッチンに戻った。
 ――― なーんで俺、こんなことしているんだろう?
カップや瓶など道具を並べながら臨也はふと思った。しかし手は止まることなく、家でするように水を沸騰させてカップに粉を入れそこに湯を注ぎスプーンで二、三回混ぜていた。携帯を見たときはまぁこの後は暇だし助けるか。そんな軽い気持ちだったが、よくよく考えてみれば雨に濡れた子を助けるなんて洒落たことは誰にもしたことがなかった。
 ――― 特別視したせいかな?
顎に手を当てながら、臨也は静雄が出てくるのを待った。



 温かいシャワーを浴びると、静雄は気分が少し落ち着いた。冷えた体のみならずその温かさは心にも少しだけ届いた。薄緑色のタイルの壁に手をつき、静雄は鏡を見た。
 ――― ひっでぇ顔
こんな暗い表情をして自分は街を歩いていたのか。改めてそう思うと少し馬鹿らしく感じてしまった。正直に話そう。静雄はそう決めた。
 濡れた体をふき、さぁ出ようと思った所で静雄は着替えのことを思い出した。そういえば部屋に寄って持ってくるのを忘れていた。しかしそれは杞憂に終わった。風呂場を出て洗面所を見ると、タオルが置かれているかごの上に服が置いてあった。そう言えば何か言っていたような気がした。静雄はそれに着替え、ジャケットから折れたシャープペンを取り出してジーンズのポケットに入れ、洗面所を出た。臨也に礼を言おう。そう思い電気のついたリビングに向かった。
 扉を開けると、梅雨独特の湿気が消えていた。
「勝手にキッチンとかエアコン使ったけど、良かったかな?」
臨也はソファに座っていた。テーブルの上にはカップが二つ置いてあった。静雄は一つ頷いて、その向かいに座った。
「どっちが好きか分からなかったから両方淹れちゃったけど」
「……ココア」
「そう」
静雄はココアの入ったカップを取った。一口飲むと、丁度いいぐらいに冷めており、また偶然にも静雄の好きな濃さであった。臨也は残ったコーヒーの方のカップを手に取り、一口啜った。
「で、何があったの?」
そう尋ねられると、公園の時とは違い、静雄は答えることが出来た。
「幽がくれたシャープペンを、折っちまったんだ」
そう言って、静雄はジーンズのポケットからその折れたシャープペンを出した。
 ――― うわぁ
一体どれほどの力が入ればここまできれいに折れるのだろうか。割合太めのシャープペンは真ん中ぐらいのところで、見事に真っ二つに折れていた。外のケースも、内の軸も綺麗に割れていた。修復できないわけではないが、すぐにまた折れてしまうのは目に見えていた。
 臨也はうーん、と唸って、やがてコートのポケットに手を入れた。
「はい」
「え?」
「幽君の物の代わりにはならないかもしれないけど、俺からプレゼント」
静雄の前に出されたのは、最近出たばかりの真新しいシャープペンだった。
「丁度今日買いに行ってきてね」
「でも」
「いいって。それくらい、また買えばいいし」
臨也はコーヒーを一気に呷り、立ち上がった。
「受験、頑張ろうね」
「…はい」





 その後、静雄は幽にシャープペンのことを話した。
「そう」
幽は怒ることも悲しむこともなく、少し嬉しそうな表情をしてそのシャープペンを見た。
「これ、本当は兄貴の力を抑えてくれるように願掛けしてたんだ」
「そうなのか?」
「うん。あまり効果なかったかもしれないけど…」
「いや、そんなこと!ない、」
「無理しなくていいよ」
そう言うと、幽はもう一本、同じシャープペンを静雄に渡した。
「今度は、ちゃんと受験が成功するようにってお願いしておいた」
「…ありがとな」



 期末考査中、静雄は調子が良かったことは言うまでもない。