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家庭教師情報屋折原臨也4

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 梅雨が明け、じりじりと蒸し暑い季節がやってきた。授業も短縮に入り、午後は文化祭の準備が始まっていた。
「静雄、考査前に何かあった?」
休み時間、新羅は空いた静雄の前の席に座るなり、突然そう切り出した。
「なんだよ、突然…」
「いや、期末考査あたり、何か機嫌よかったからさ」
そう言いながら、新羅は静雄のペンケースの中を漁り始めた。何してんだと言いつつも静雄は特に彼の手を止めたりはしなかった。そして間もなく、新羅はその中から二本のシャープペンを机の上に出した。一本は以前静雄が折ってしまったものと同じものだった。どうしたのかと聞けば、また貰った、といった。
「へぇ、幽君から同じもの貰ったんだ」
「あぁ。前のやつは俺の力を止めてくれるよう願掛けしてあったらしい」
「成程」
一見どこにでも売っていそうなシャープペンだったが、軸をくるりと回したときに目についた軸の文字を見て、新羅は吹き出しかけた。
 ――― これは特別製だ
それでも顔はにやけていた。軸にあった文字は。
『 Dear.SHIZUO.H from,KASUKA.H 』
光の加減で薄く見える程度の文字であった。静雄の様子からして、この文字に気づいた様子はないようだった。
――― なかなか粋なことをするなぁ、幽君
新羅はさらに、もう一本の方のシャープペンを手に取った。そちらはついこの間新発売された某有名文具メーカーのものだった。気軽に買うにはちょっと高すぎる値段が付いていたことと新羅は思い出した。
「静雄って文具にこだわりあった?」
「それも貰いもんだ」
「誰から?」
そう聞くと、静雄の口から出てくるとは思ってもいなかった名前が出てきた。
「折原っていう家庭教師。受験がんばろうってくれた」
「折原?!」
その声は思った以上に大きく、教室中の視線を集めてしまった。新羅は苦笑いし、一つ溜息をついた。
 ――― いや待て自分。折原っていう名字は他にもたくさんいるよ。なに勝手に『臨也』って指定してるんだ。でも僕が知る折原って彼しかいないし……
新羅のその様子を見て、静雄は決定打を決めた。
「本当に知り合いだったのか」
 ――― あぁ、臨也に決定だ。てか、何で臨也?
「い、いや……まぁ、結構お世話になってるというか、お世話してるというか…」
「何だそれ?」
頭上にクエスチョンマークをいくつも飛ばしている静雄をよそに、新羅はへぇ、うん、そう、などと呟きながら、シャープペンをペンケースの中にしまった。
「あの時は本当、助かった気がするんだよな」
「…へぇー」
珍しい静雄の穏やかな表情に、新羅は一抹の不安を感じていた。



   *   *   *



 同日午後、川越沿いマンション
 新羅はある人物を前にして怒っているのに笑っている顔をしていた。
「どうしたんだい?」
折原臨也だった。
 あの後新羅は授業後にあった文化祭の話し合いに参加しなかった。とくに興味もなく、皆がやることに適当に合わせればいいかなぁと思い、同じ考えを持った静雄とともに教室を出て家にまっすぐ帰った。すると、なぜか臨也が家の中にいた。同居しているセルティが鍵をかけ忘れたと言うのは考えられなかった。だとすれば、この男は不法侵入者となりうるのだが、はっきり言って今に始まったことではなかったので、新羅は言及しないでおいた。
 それよりも気にかかってやまなかったのは。
「何で君みたいな最低最悪腹黒外道残酷冷酷非常卑劣な情報屋折原臨也が、静雄の家庭教師なんてやってるのかなぁ」
「立派な罵詈雑言ありがとう」
臨也は他人の家だというのに優雅にソファに座り、新羅の出した紅茶を啜った。
「単なる偶然だよ」
聞けば、応募者多数により、抽選となって彼の書類を引き当てたそうだ。新羅にしてみれば、どんな家庭教師の会社なのかも気になった。生徒を抽選で選ぶ家庭教師があっていいものか。きっと臨也と何らかの取引をしているに違いない。
「で、興味持ったから続けてるんだよ」
「いつまで続くかなぁ」
新羅はダイニングテーブルに寄りかかり、愛用のマグカップでコーヒーを飲んだ。臨也は飽きやすいことを、新羅は知っていた。本職と人間への愛を除いて、今まで長くもって半年。短い時はたった二時間程度しか続かなかった。家庭教師も、生徒をころころと変えては長続きしていなかった。
「今までいろんな子のこと聞かされてきたけど、シャープペンをあげるなんて初めてじゃないか。しかも受験がんばろうだなんて」
「そうだね」
臨也はカップをテーブルに置き、背もたれに寄りかかった。
「俺も不思議だったよ。雨の日に公園で彼を見つけてさ、家まで送って色々世話して」
 ――― おいおい人の家で何やっているんだ。
心中でそう突っ込み、新羅はマグカップから口を離し、臨也の方を見た。
「最初に会った時も、俺が集めた情報と違いすぎて驚いたよ。これが化け物かってね。確かに容姿は人並み以上だし、力だって現場を見たことはないけど動画見て本当らしいことがわかった。しかも警戒心は人一倍強い割に、存外すぐ慣れるんだよね。この間も引かれてた線一本越えた感じがしたんだよ。俺を最初見たとき毛を逆立てた猫、いや、ライオンあたりにでもしておこうか、そんな感じだったのに。シャープペン一本壊したぐらいで落ち込むくらい精神的には弱くて・・・何であんな最強で最弱のものを、この世界は作り出したんだろう」
 ――― 臨也?
その長い言葉を聞いて、新羅はふむ、と顎に手を当てた。
「君ってさ、色々曲がってるよね」
「まぁ、真っすぐな人間ではないと思うよ」
俺が真っすぐだったら、この世の人間のほとんどが鋭利な直線になるんじゃないかな。
臨也は嗤った。そうじゃなくて、と新羅は結論を言った。
「好きなの?静雄のこと」
「好き?まさか。冗談だ」
そう言って、臨也はカップに口をつけた。
「そうやって短絡的に結びつけるところはまだ君も高校生だね。最初に言っただろう?興味だって」
あくまで興味と言い張る臨也に、新羅はかまを掛けてみた。
「興味、ね。確かに僕も静雄に興味はあるよ」
「へぇ」
瞬間、臨也の目の色、目つき、空気が少し変わった。それを感じ取りながらも、新羅は続けた。
「あの筋肉、骨格、体格でどうして自動販売機とかアスファルトに埋まった標識とか重いものが持ち上げあれるのかってね。解剖してみたいよ」
「それは彼が死んでからにしてくれないかなぁ」
そう言うと、臨也はソファから立ち上がった。いつの間にか変化はすべて消え去り、横に置いていたコートを羽織り、玄関へと歩き出した。
「俺この後仕事だから、また後でよろしく。じゃあねー」
ドアが閉まり、新羅はダイニングテーブルからソファへと移動した。
「また後でって、今日も怪我すること決定なのかい」
仕方ないなぁ。新羅は医療器具一式を準備しておくことにした。
 そして、臨也は短絡的で高校生だと言ったが、明らかにあの空気の変化は間違いないと新羅は一人マグカップを片手に深く頷いた。
「というか、やっぱり好きなんじゃないか。静雄のこと」
案外短絡的なのは臨也の方じゃないかなぁ。マグカップを一気に呷って残りを飲み干し、新羅は事務室、もとい治療室の清掃を始めることにした。