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あなたが憶えているすべてを僕はしらない

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[平和島静雄]

折原臨也が死んだのは突然のことだった。
あんなに死から程遠いところにいる男も珍しいと思っていたのに(もちろん自分は別だ)、あの男はその予想を覆してあっけなく逝っちまった。まああいつは人の予想を覆すのが大好きな男だったからそれで本望なんだろう。前に俺は天国へ行きたいとかあほみたいなこと抜かしてやがったがそれが叶えられたかはしらない。ただ、そんなあほみたいなことはあんなあほが願ったところで簡単に叶えられやしないだろうということはバカな俺にも理解はできた。なので俺は死んだあとの世界というやつを作ってやることにした。あんな厭な男のためにだ。笑える話だよな。むしろ泣けるな。俺は表彰モンのやさしさの塊だ。しかし俺には世界を作る技術なんてない。まして死後の世界なんて見たこともねえものを作る技術はない。つーかそんなもん作れる奴この世にひとりとしていないだろう。いたとしたならノーベル賞モンだ。というわけで俺は俺にできる形であいつを蘇らせてやることにした。一度死んでもう一度目覚めたならそこは死後の世界と同義だろう?たぶんそうだ。いやきっとそうだ。だって新羅がそう言った。新羅は変態だが医者としての腕と知識だけは信頼できる。俺は奴に頼んだ。折原臨也を蘇らせてくれと。あいつは普通に嫌な顔をした。そして断った。俺は生きている人間の治療をしたことはあるけど死んだ人間の治療はしたことないよ。ましてや蘇らすだなんて。むしろ静雄の治療をしたほうがいいんじゃないのかい。同情で安くしといてあげるよ。俺は思わず新羅の頬を思い切りぶん殴るところだったがそれじゃあいつを蘇らすという俺のやさしさは儚く消えて散ってしまう。ぐっとこらえて頼み続けた。そのうち根負けしたのか新羅は了承してくれた。ただし、姿かたちは似せることはできるけど、記憶がすべてきちんと彼に入ってくれるかはわからないよ。成功する確率は20%を切る。それでもいいね。新羅はそう言った。俺はあいつがもう一度酸素を吸えるならそれでいいとそう言った。君たちは本当に・・・そう言って新羅はためいきを吐いた。

そして彼はもう一度生まれた。
白いベッドの上ライトに照らされて横たわる姿はまさしく臨也だった。臨也そのものだった。ただひとつ違うのは彼の頭にはヘッドフォンに似た何かが装着されていたことだ。ヘッドフォンを耳に当てた彼は静かに呼吸をしていた。薄い腹がゆるやかに上下する。新羅、おまえすげえな、素直にそう言えば、新羅はすこし困ったように眉を下げてこう言った。褒めるのはまだ早いよ。これはまだ臨也じゃない。中身がないんだ。何度も試しているんだけど、彼の記憶を送り込むことがどうしてもできない。もうあとは君に任せるよ。なんせ、彼を一番しっているのは君だろうからね。色んな意味で。あと、彼は今の状態ではただの器だ。僕はサイケデリックと呼んでいる。何度も言うようだけど彼は・・・臨也じゃないからね。ばたん、新羅が静かに音を立てて部屋を出て行く。俺は勝手に椅子を引っ張り出してその”臨也でないもの”の傍に座り込んだ。すうすうと静かに呼吸する姿は人間でないという事実を忘れさせる。必要以上に整った目鼻立ちにあいつを思い出す。普段いやらしい笑顔を剥がすことのなかった奴は眠っているときだけは穏やかな顔をしていた。俺はその顔を眺めるのが好きだったのだ。あいつが起きてしまったら否が応でも殺し合わなければならなかったから。だが、今俺はこいつが目覚めるのを心待ちにしていた。たとえその瞬間殺し合わなければならないとしても。俺はそのときを楽しみにしていた。そうと手を伸ばしてさらさらの黒髪とその下に隠れた額に触れる。すると彼に変化が起きた。ふるりとまつげが揺れ、赤い瞳が覗いた。ぱちぱちとまばたきをする。臨也、そう呼ぼうと口を開くと、彼は臨也の顔をして俺を見詰め、「・・・だれ?」と言った。体が凍る。そうだ、新羅にあれほど言われたではないか。彼は臨也ではない。今は、まだ。サイケデリック。それが彼の名前なのだ。「ねえ、だれなの?」彼は不安げに俺を見上げる。「俺は、」俺はすうと息を吸って彼と向き合う。「俺は平和島静雄だ」「へいわじま・・・?」その口が呼んだ名前に違和感を覚えた。「あ、ああ」あいつにそっくりな薄いくちびるはあいつにそっくりな青空のような声で言う。「よろしくね、平和島」