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あなたが憶えているすべてを僕はしらない

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[岸谷新羅]

折原臨也が死亡することはわかっていた。
彼はそのことを静雄にだけは言わないでくれと言った。そのうつくしい顔には死の影は微塵もなかった。いつもどおりに厭な笑みを貼り付けて彼は嬉しそうに頼むよ、と言った。
どうして?といちおう聞いた俺に彼は、だってそういうことは突然じゃないとおもしろくないじゃないか、と言って笑った。そしてああ、そのときの彼の顔が楽しみだよ。俺が死んだらシズちゃんはどういう顔をするんだろうね?なんて言うもんだから悪趣味だよと詰ってみせた。すると彼は、だけどその顔を俺は見れないんだ。もう二度と俺のことを殺すことはできないとしったときのシズちゃんの顔を。すごく楽しみなのに。と笑顔を消して悲しげに呟いて見せたのだ。新羅。彼は急に顔を上げて僕の名を呼んだ。なんだい、かるく問い返すと、俺の死体は燃やさないでくれ。と言う。俺の死体は燃やさないでくれ。俺の体は殺さないで。残しておいて。俺は死にたくない。俺が生きたという事実を消したくないんだ。お願いだよ新羅、消さないで。彼は私の知る中でもとても情緒不安定な人間だったけれど、これほど必死な彼を俺は今まで見たことがなかった。私はわかった、わかったよ燃やさないよと約束した。彼はあからさまにほっとした顔をしてありがとう新羅、と言った。彼が素直に礼を言うなんてこともまためずらしいことだった。死というのは人をここまで変えるのかと俺は未知の扉を見詰めるようなきもちで思った。僕はきっと死を前にしてもあまり変わらないだろう。なぜなら俺にはセルティがいるからだ。セルティは人間じゃない。私の死を見届けてそしていつまでも生き続けるだろう。僕が願うのは僕が死ぬときにセルティが必要以上に悲しまないといい、ただそれだけだ。私はセルティを愛しセルティに愛されたという記憶だけを持って穏やかに逝く。それをセルティにも穏やかなきもちで見届けて欲しい。彼女の涙は見たくなかった。しかし臨也は違うだろう。彼はひとりだ。彼はひとりで生きることを選んだ。彼は静雄を選んだのに、傍にいることは選ばなかった。そんな彼にとって消えることはとても怖いことなのだろう。彼は自分の存在が彼の中から消えていくことを恐れている。自分が消えればなにもかもがなくなると、それを恐れている。そしてそれはある部分では正しい。だから私は彼に何も言わない。彼はしばらくのあいだ身長のわりに細い体躯をソファに投げ出してコーヒーをすすっていた。俺が出したコーヒーがすこし苦かったのか眉根を寄せている。ねえ新羅。コーヒーへの文句でも言われるのかとちらとそちらに目をやって目だけでなんだいと聞くと、もうひとつ、お願いがあるんだとこの男にしてはありえないほど殊勝な声音で言った。新羅を優秀な医者と見込んでのお願いだよと彼は言った。それは研究者である親父も指してのことだったろう。俺の記憶、生まれてから今までのすべての記憶を、データにして残して欲しいんだ。そう彼は言った。体を残すことよりこっちのが難しいだろうということはわかってるんだ。だけど体だけ残ったって俺じゃない。俺は俺としてこの世界に存在し続けたいんだよ。俺は、もう一度、天国でもいい、シズちゃんに会いたいんだ。そう言った彼に私はわかったと言った。ありがとうと彼は今まで見たこともないくらい穏やかな顔をして言った。そして折原臨也は死んだ。3日後、ある人物が俺の家のドアを叩いた。平和島静雄が、そこには立っていた。