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ほのかなぬくもりだけをとかしこもう

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side::米英




リネンは星と陽のにおい

眠れない夜は彼の物語に耳を傾ける。本を読むのではなく、彼の記憶から零れてくるその物語は何よりも面白かった。二人で過ごすベッドの中は星よりも陽よりも輝いた。でも今は一人、リネンから香るのは孤独のにおい。
(100字)



出せない手紙の宛名

海のように広がった手紙の上に寝転がる。波が向かう場所は全て同じ筈なのに、ひとつとしてそこが宛名として書かれているものはなかった。紙がくしゃり折れる音と一緒に、かつての自分が泣いている声が聞こえた。
(98字)



敬虔な銃口

俺は君を神様にしたくなかった。同じ地上で生きたかった。でも、それは君に銃を向ける理由にはならない。君は泣いた。それは血を流すよりも深い痛みを伴う。俺は神を殺した。だけどもう君とは生きられなかった。
(98字)



音だけで降る雨

あの日から耳の奥で止まない雨がある。晴れの日も曇りの日も同じ雨の日にさえ。聞き飽きたそれは、人生の底辺で聞いた音だ。傘を差してもこの雨からは逃れられない。あぁ、この目から流れたこれも、雨なのだろうか。
(100字)



遠ざかりゆく幻に

俺は君の大事な弟を幻にしてしまった。次第に遠ざかっていく幻に行かないでと泣き叫ぶ君を、後ろから抱き締めてやることしかできなかった。いやだ、と耳を裂くような悲痛な声を聞いて、己の罪の重さを知った。
(97字)



風は何から逃げてるの

あの風みたいに、俺から逃げるの?そう言って泣かれた日もあった。それは違う、俺の心がお前から離れることは一日もなかった。自由な風のように逃げたのはお前のほうだ。愛しい弟。お前は何処へ逃げてしまったのか。
(100字)



終着予定地

いつかは別れを突き付けるつもりでいた。今日が来るのはずっと予定していた。君に恋をした、あの日に決めていたんだ。君は俺の浅はかな恋心など知らなくていい。ここを終着点にするから。君はただ、俺を憎めばいい。
(100字)



言葉なんか残らなかった

俺は口下手だから何を言ってもお前の足しにはならないだろう。だから言葉の代わりにいつもぎゅっと抱きしめた。お前は嬉しそうに笑ってくれていたけれど、やっぱり言葉は必要だったのかな。結局、何も残せなかった。
(100字)



もげるようにこぼれた嘘

君は独立の理由を欲しがった。だから言ってやった、嫌いだからだと。それでも君は満足して引き下がらない。静かに俺の頬に触れて、やさしく名前を呼んだ。そこで初めて、俺は自分が泣いていることに気付いた。
(97字)



後ろ姿はりりしすぎて

壊れた映写機はただ同じ場面を映し出す。BGMは窓の外から聞こえる雨の音。ラストシーンはきまって、俺を見ない弟の大きくなった背中。俺は目を閉じる。雨の中しゃんと立つ青い軍服が眩しすぎて、瞼から離れない。
(98字)