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よしこ@ちょっと休憩
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司祭未満/剣の音色

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司祭未満



 部屋に入ると自堕落な汗と香と、少し酒の匂いがした。
 力を合わせて死地を乗り越えたロトの血族は、ローレシア国王が来訪したというのに、だらりとベッドに寝そべっている。
「何やってるんだよ」
 かつて共に旅をした気安さで、寝ころんだサトリの隣に腰かけると、薄い色の目がこっちを見た。相変わらず美しいとしか言いようのない顔だった。オレンジ色に光る赤毛と、白い肌。完璧といいたくなるような頬の丸みが愛らしい。とても20を超えた男とは思えなかった。
「……ん、眠い。出てけよ……」
 昨日今日と髭も沿っていないのか、顎がうっすらと金色に光った。ロランはとっさに「女の産毛みたいだ」と思った。
 風呂も入っていないらしい脂が滲んでべったりと根元の束になった髪が左右に分かれて突き立っている。ねっとりと潮の味がしそうな汗っぽい喉元も合わせて、初々しい少年だった旅姿から見違えるような零落ぶりだった。苛立ちを感じるが、声に出さないようにしながら、そろそろ起きないかと尋ねた。
「いい。起きるの昼だから……」
「ちょっとくらいは歓迎してくれてもいいじゃないか。今日の夕方までしか居られないんだからさ」
「じゃ……夕方に起きる……」
「さ~と~り~!」
 すでに昼近いというのに皺くちゃになったパジャマを着たままのだらしなさに思わず眉が寄る。
「ほら。着替えなって。どこだよ箪笥は」
「隣……。いい、どうせ週末の祈りまで……なんももないし……」
 ふわぁと大きなあくびをして、サトリは寝息を立てだす。
 叱ろうかと逡巡しながらサトリの姿を眺め、ボタンが外れてみえる平らな腹の白さと、へそのあたりに落ちる影に視線を吸いつかせた。やや細いが本能的に好ましいと思ってしまい、どう判断したものかと悩んでいると、いつ目を開いたのだか、シーツを眺めていたサトリが上目づかいにロランをうかがったので、あわてて視線を逸らした。
 彼と会うのは実に5年ぶりだった。
 旅を始めて最初に合流した仲間で、明るく素直な少年だった。常にロランの後ろに控え、サポートに徹してくれた。だからロランはいつでもモンスターたちと正面から立ち向かい、思う存分剣を振るうことができた。
 ロランはサトリが好きだった。キスだってしたことがある。
 本当なら、もっと早く、年に二度くらいは会いに来たかったのだが、引き継いだばかりのローレシアを安定させるのに忙しく、結果として御念が過ぎていた。
 その間にサマルトリアも代替わりすると思っていたのだが、サトリがサマルトリアでめっきり部屋に閉じこもって遊び暮らすようになり、サマルトリアは妹が継ぐかもしれないと聞いて、いくらなんでもと心配のあまり駆け付けた。
「なんだよ。別に用はないんだろ? あるなら妹にいってくれよ」
「君は……なんで妹君に働かせて寝てるんだい?」
「別に。俺の出番はないだろ」
 サトリはロランに背を向けて寝がえりを打つ。パジャマの裾がめくれて、白い背中が見えた。
 ロランが思わずひき下げると、うるさそうに後ろ手で払われる。
「ないかどうかは自分で決めるものだろう? 君がしっかり王子としての義務をこなして、困っている人を助けていたら、自然と声がかかるさ」
「ふぅん。声がかかる、ね」
 サトリは小さな声で詰まらなさそうに繰り返した。
 優しい声に嫌みはなく、本当に興味がないだけの呟きだったがロランにはそう聞こえなかった。
「サトリ。こっちを向いてくれないか」
 言いながら肩を掴んで上体を引き上げ、無理やり座らせようとする。サトリは肩をそびやかしてロランの手を外そうとして力に負けて、おとなしくその場に座るとロランを睨んだ。
「どうしたんだよ、ほんとうに。あんなに僕やルーナを助けてくれた君だろ。僕は、あのハーゴン討伐の旅で君の助けがあったからロンダルキアまでたどり着けたと、シドーも倒せたんだと思ってる。君自身は剣も魔法も中途半端だっていつも悩んでたけど、僕は剣も魔法も一流だと思ってる。それ以上に、仲間を支えようって、毎日毎日、沢山の治療とか買い出しとか、骨の折れる仕事を担ってくれた君の事を本当に尊敬していたんだ。なんで、こんなだらしなくなっちゃったんだ」
 だらしないと言われて、サトリは小さく肩を震わせた。両腕で膝を抱いて体を守るように蹲っている。
 何か反論するかと待ったが、サトリはふてくされたように下を向いている。赤毛の間から透ける薄紅色の耳を見おろしながら、サトリから離れるように腰をずらした。
「ねぇ。本当にサマルトリアでは仕事がないのかい。だったらローレシアに来てみないか? うちにも神学校を兼ねた教会をつくろうかって話があるんだ。サトリが司祭として勤めてくれたら僕も心強いよ」
 ぎゅっと音を立ててサトリがシーツを掴んだ。どうも話はお気に召さなかったらしい。いい年をして癇癪を起してくれるなよと気を揉みながら、ロランはサトリをローレシアに勧誘した。
「僕の従兄が魔法に興味を持っているんだ。もしサトリがサマルトリアの神学と魔法を伝えてくれるなら、是非とも師事したいって張り切ってる。どうだろう。あまり……給与は満足させられないかもしれないけど、できるだけ環境や仕事に関する要望なら応えたいと思う。ローレシアの教会運営を考えてみないか?」
 サトリはうつむいていた顔をあげて、じっとロランを見た。無気力な顔が痛々しい。
「それは、お前の希望か?」
「ああ。是非、来てほしいし。君が相手だからはっきり言うと、こんな君を見ていられない。断られても連れて帰りたい」
 口にした後、サトリにずいぶんと厳しい物言いだなとロランは後悔した。サトリに羞恥心やうっ屈がないわけがない、そこを突かれれば嫌でもかたくなになる。言われた王子は数回瞬きしてから、かつての旅路で見た聡明な顔を取り戻した。
「それはロランが本気で考えて、来たのか?」
「ああ。もちろんだ」
「俺、こんなだぞ。何年も修行も魔法もしてないし、教会にも呆れられて援助なんてしてもらえない」
「君でいい、君一人がローレシアに来てくれればいい」
 ロランが頷いてサトリの方に手を置くと、はっと目を開いて驚いた顔を見せた。薄い色の目が潤んで光っている。
 サトリは顔を伏せると、そっとロランの袖口をつまんで引いた。顔を寄せると痛そうな顔で質問された。
「うちの……父に頼まれたか?」
 か細い声をようやく聞き取って、ロランは迷わず頷いた。
「そうだよ。君の父上が一番心配しているんだ。妹君だって。お二人にサトリを頼むって本当に真剣にお願いされて、だから僕もここまで来たんだ」
 決して君は見捨てられてるわけじゃないと説明すれば、サトリは深々と頷いた。分かって貰えた嬉しさにロランの顔もほころぶ。緊張と疲れがすべて解けていくようだった。
「さ、立って。すぐに支度しよう。僕はこのあとムーンブルクに行かなきゃいけないから、ずっと君の世話はできないけど、僕の従兄が表で待ってる」
 我が意を得てロランは生き生きとした。性急だと思いながら予定を語りつつ、ベッドから腰を浮かしたところで、ひんやりしたものに思い切り顔を突き飛ばされた。
「ぶっ!」