【サンプル】 La Vita Romantica 【臨波】
8.22 SCC関西16合わせの新刊サンプルです。
臨也と波江(多少臨→波より)の本になります。一つの話の部分を抜粋しているので各ページはつながっていません。
* *
ピピピピ……。軽快な電子音が静かな室内にこだました。それは何かの始まりの合図のようでもあったし、終わりの合図だともいえた。
彼女は音源である小さな機械を手に取り、そこに浮かび上がった数字を睨めつけると、次いでその先にいる男の顔を見やった。男はいつものような表情をかろうじて浮かべているような状態だ。どうやらこの数字は嘘ではないらしい。
「あなたでも風邪なんてひくのね」
波江はいつも通りの表情を崩すことなく、体温計と臨也の顔を交互に見てそういった。その物言いはいかにも「馬鹿は風邪をひかない」という言葉を連想させたので、臨也は心底嫌そうな表情を浮かべて言葉を返す。
「なんだか引っかかる言い方をするよね……俺は別にバカになった覚えはないなぁ」
「馬鹿だとは言ってないじゃない。ただ、あなたもあなたが愛してやまない一端の人間だったという事が興味深いという話よ」
彼女はそういうと、体温計をガラステーブルに放り、臨也が寝転がっているソファの斜向かいのソファに腰かけた。この態度をみるかぎり、看病をしてくれるという気はさらさらないらしい。まぁそれが実に彼女らしいと言えばそうなのだが。臨也はそんなことを頭の片隅で考えながら、重い頭で憎まれ口を叩くことに徹した。
「はは、君も言うよね。それにしてもひどいなあ、波江さんは。職場に来て、上司を見つけるまで一時間も放っておくなんて」
「あんなところにいた貴方が悪いのよ。むしろ見つけてやったことに感謝してほしいくらいね」
頬杖をつきながら波江はそう返答した。その口調は明日の天気を語るのと同列で何の感情もこもっていない。つまりはどうでもいいという話だ。
そんな口ぶりで話しながらも、ちらと見やった男が「ひどいね」といつも通りの、あの変に芝居がかった口調で愚痴みたいにこぼすものだから、波江は臨也を見つけた時をつい頭の中に思い起こしてしまう。話は三十分ほど前に遡ることとなる。
臨也と波江(多少臨→波より)の本になります。一つの話の部分を抜粋しているので各ページはつながっていません。
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ピピピピ……。軽快な電子音が静かな室内にこだました。それは何かの始まりの合図のようでもあったし、終わりの合図だともいえた。
彼女は音源である小さな機械を手に取り、そこに浮かび上がった数字を睨めつけると、次いでその先にいる男の顔を見やった。男はいつものような表情をかろうじて浮かべているような状態だ。どうやらこの数字は嘘ではないらしい。
「あなたでも風邪なんてひくのね」
波江はいつも通りの表情を崩すことなく、体温計と臨也の顔を交互に見てそういった。その物言いはいかにも「馬鹿は風邪をひかない」という言葉を連想させたので、臨也は心底嫌そうな表情を浮かべて言葉を返す。
「なんだか引っかかる言い方をするよね……俺は別にバカになった覚えはないなぁ」
「馬鹿だとは言ってないじゃない。ただ、あなたもあなたが愛してやまない一端の人間だったという事が興味深いという話よ」
彼女はそういうと、体温計をガラステーブルに放り、臨也が寝転がっているソファの斜向かいのソファに腰かけた。この態度をみるかぎり、看病をしてくれるという気はさらさらないらしい。まぁそれが実に彼女らしいと言えばそうなのだが。臨也はそんなことを頭の片隅で考えながら、重い頭で憎まれ口を叩くことに徹した。
「はは、君も言うよね。それにしてもひどいなあ、波江さんは。職場に来て、上司を見つけるまで一時間も放っておくなんて」
「あんなところにいた貴方が悪いのよ。むしろ見つけてやったことに感謝してほしいくらいね」
頬杖をつきながら波江はそう返答した。その口調は明日の天気を語るのと同列で何の感情もこもっていない。つまりはどうでもいいという話だ。
そんな口ぶりで話しながらも、ちらと見やった男が「ひどいね」といつも通りの、あの変に芝居がかった口調で愚痴みたいにこぼすものだから、波江は臨也を見つけた時をつい頭の中に思い起こしてしまう。話は三十分ほど前に遡ることとなる。
作品名:【サンプル】 La Vita Romantica 【臨波】 作家名:いとり