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【サンプル】 La Vita Romantica 【臨波】

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「薬は?」
「そこにあるわよ」
 そういって波江はテーブルの上を指差した。その指をたどり、机の上に水の入ったグラスが置いてあるのがちゃんと見えたので、臨也は額に乗ったタオルを手探りでのけると重い体なんとか起こした。
 臨也がわざわざそれを確認してから体を起こしたのは、波江のことだから薬や水を用意してないのにもかかわらず、そんなふうに声をかけるんじゃと、少なからず疑念を持っていたからだ。まあ仕事といったのだから、彼女がそんなことをする訳もないかとも思っていたわけだが。
 波江は仕事という言葉が冠されたものだったら、いつだって完璧にやり遂げていた。それはこの薬を持ってこいということも同じだったのだろう。
 久々に起こした体はなんだか言うことをきかない。頭だってまだ重くてくらくらする。臨也はソファに体を預けながら頭に手を添えてなんとかその状態を保った。とっとと薬を口にして、このいうことのきかない体をどうにかしたいものだ。そんなことを思いながら指差されたテーブルの上に視線を走らせる。そして、一拍ののち、そこにあるものに対して彼は眉をしかめた。
「……波江さん」
「何よ」
「この薬、見たことないんだけど」
 臨也は溜息をつく心地で言葉を吐きだした。同時に余計頭が重くなるような気がした。仕事ならば完璧にやりこなすというのは訂正すべきかもしれない。