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お料理と骸髑

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「お料理は、好き……。……なんです」

 長いテーブルを挟み、向こうの席に着いたばかりの少女は、外したばかりのエプロンを膝に乗せ、骸に聞こえるかどうかの音量で呟いた。
 どうやら他者との会話、とみに自己開示といった物への習慣のない彼女にとっては、これらの言葉もやっとのことで発した物なのだろう。
 白いテーブルクロスの上に並べられた沢山の皿の向こう、重厚な造りの背もたれに、ともすれば押しつぶされそうなほどに身体を丸めた少女は、
今、自分の発した短い一言さえも後悔するように、短いスカートの上に敷いたエプロンの紐をしきりにひっぱっている。

(別に、今すぐ取って喰おうというのでもないのですがね……)

 手元のワイングラスを煽り、一言、「続けなさい」と促せば、話す内容を整理するように、ぱくぱくと小さなバラ色の唇を動かした後、意を決したような様子で続きの言葉を吐いた。

「いつも、ご飯作ってたし……千種や犬とも、これで仲良くなった、から……だか、ら……」

 意図的に飲み込んだ言葉の為に、急に萎んだ語尾に、グラスを煽っていた相手が、僅かに眉を上げるのが見え、クロームは咄嗟に、布地を握り込む手に力を込めた。
 こうして現実に言葉を交わすだけでも、奇跡のようなものなのに、「だから、いつか、骸さまにも食べて貰いたかった」などとというおこがましい言葉を、咄嗟にでも吐こうとした自分を呪いたくなった。

「……知っていますかクローム、」

 向かいから聞こえた、ふぅ、という溜息の音に、今まで数え切れない程に浴びた呆れや叱責を予感し、
ぎゅうと強く自由な眼を閉じたクロームの耳に響いたのはしかし、存外に優しい声だった。
 その優しさにつられるように顔を上げると、彼女より2つ年上の――しかし、彼女の知っているどんな大人よりも聡明な光をもった、2色の双眼がそっと細められる。

「マフィアには、健啖家が多いんですよ」
「そうなん……ですか?」
「えぇ」

 僅かに緊張を解き、膝に両手を置いたまま、話を聞こうとするようにほんの少しだけ身を乗り出したクロームに、骸はフォークとナイフを取り上げながら言葉を続ける。

「恐らく、ヒトの三大欲求を満たすのが生存を実感するのに1番手っ取り早い手段だからでしょうね。
作品名:お料理と骸髑 作家名:刻兎 烏