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【8/22SCC関西】Bella Ciao【サンプル】

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 身体は兄に向き合ったまま、首だけ回してドイツを窺う。
 いつもより深い皺が眉間に寄っている。今にも恫喝が飛びそうな険しい顔だ。ちゃんと走れ! パスタを茹でるな! 撤収、撤収! 手こずらせて怒らせたとき、その声は容赦なく空気を叩き割った。
 しかし、同時に彼の不器用な優しさも思い出す。荷物を持ってやるからシャンと歩け! 俺が見張っておくからさっさと寝ろ!
 ドイツは差し出した手を更に伸ばすことも引くこともできず、兄弟の邂逅を前に立ち尽くしていた。
 が、短くない付き合いを重ねたイタリアにはわかった。ほんの僅かに眉尻が下がっていて、いつも残酷なまでに冴えていた美しい青の光が曇っている。
 ああ、きっと泣いてしまうな。
 イタリアはドイツの涙など見たこともなかったが、何故かそうとしか思えなかった。
 そして胸には鉄十字。
 同じものがイタリアの胸にもある。友達のしるし。ロマーノに非難されて以来、誰にも見せることなくシャツの下に掛けていたそれの重量が急に自覚される。これをもらったときのドイツの照れた表情。俺が危ないときはちゃんとお前が俺を助けるんだぞ、ともだちとは対等なものだから―――


 そうだね兄ちゃん。俺は裏切らないよ。他の誰を裏切っても、俺は自分だけは裏切らない。

 
 腰のベルトに差しっぱなしだった旗を取り出す。イギリスやフランスに殴られて、いや殴られる前から振っては、ドイツを閉口させた旗。

 それを目の前に掲げ、ロマーノを正面から見据えた。
 唇から、決意の言葉を発する。



"Addio"(アッディーオ)



 それが耳に届いた瞬間、ロマーノは驚愕と絶望でその顔を歪める。

 凍った空気を割るように、放った白旗が乾いた音を立てて落ちる。柄がくるくると回り、白い布がマーブルの床に広がった。

「行こう、ドイツ」
 身を翻し、中途半端に差し出されたままのドイツの手を、こちらから掴んで引いて歩き出す。ロマーノとは逆方向へ。
ドイツは放心して座り込むロマーノを見て、口を開き何か言いかけたが、それを遮るように再び決意を告げた。
「俺は、行くよ」
今まで見たことのないイタリアの強い意志にドイツは、飛行機を待たせてある、とだけ言って同様にロマーノに背を向けた。