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 しばらくすると、新羅が戻ってきた。再びソファに腰掛け、コーヒーを片手にゲームを観戦する。新羅は、着替えたところで結局白衣のままだった。
「さて、晩御飯は出前でいいかな? ピザ、ラーメン、うどん、そば、カレー、寿司、何が良い?」
 唐突に新羅がそう言ったので、杏里ははっとして時計に目をやった。時計の針は、既に七時を回っている。杏里の操作を離れたキャラクターが敵にぶつかりそうになったが、今度はしっかりとセルティが助けた。
「あ、ごめんなさい、こんな時間まで……。私、帰ります」
 杏里は慌ててそう言ったが、新羅は不思議そうに首を傾げた。
「何で? もうちょっとでエンディングじゃん」
 杏里たちは、既に最終面まで進んでいた。やりこみ要素はそれなりにあるが、ストーリーを追うだけなら大した時間はかからないゲームだ。そういう点も、セルティが選んだ理由だった。
『何か用事があるんでなければ、遠慮しないで』
 戸惑う杏里を、セルティも引き留めた。
「あの、でも……」
『帰りはちゃんと送るし、何だったら泊まって行けばいい』
「いえ、そんなにお世話になるわけには」
 杏里が慌てて首を振る。
「気にすること無いよ。出前頼むのも頭数いてくれた方が助かるし。もしかして、見かけによらず、とんでもない大食いだったりするのかな? ま、五人前までは交渉の余地有り、解剖させてくれるなら十人前ぐらいまでなら面倒見るよ?」
 新羅が身を乗り出してまくし立てたので、杏里は思わず身を退いた。
『変なこと言うんじゃない』
 セルティが、肩を怒らせて新羅にPDAを差し向ける。
『さっきも物騒な物見せちゃったし、杏里ちゃんが怖がるだろ』
 しかし、セルティの心配を他所に、杏里はくすりと笑って口元を押さえた。その様子を見て、新羅が誇らしげに笑うので、セルティは新羅の脇腹を鋭く突いた。実際は、二人のやり取りする姿を見て笑ったのだが、二人にはあずかり知らぬことだった。
 結局、杏里は恐縮しながらも首を縦に振った。新羅は出前のチラシを掻き集め、一人前では頼めない店ばかりをピックアップして杏里に見せた。



 ゲームに慣れてきた杏里が、三回の挑戦の末にラスボスを倒すと、いつの間にか絨毯に移動していた新羅がぱちぱちと拍手を送った。セルティは、既に何度かクリアしたはずなのに、エンディング画面にのめりこんでいた。杏里もいつになく熱心に、エキャラクター達のやり取りを見つめている。新羅はそんな二人の様子を見とめると、両手を膝の上に下ろした。暫くの間、室内にはノスタルジックなゲームの音楽だけが流れた。
『やっぱり名作は何回やっても面白いな』
 最後の画面が表示されてから、ようやくセルティが口火を切った。
「セルティはこれ、好きだよねぇ。発売された時は見向きもしなかったのにさ」
『キャラクターの可愛さに騙されたんだ。こんなにいいゲームだとは知らなかったんだ!』
 このゲームは、セルティが偶然ネットでの評価を見て、通販で購入したものだ。それ以来、セルティにとって定番のアクションゲームの一本になっている。
「とっても面白かったです」
 杏里がぽつりと呟いた。それを聞いて、セルティが安心したような文章をPDAに打ち込んだ。
『良かった。どんなのが好きか分からなかったから』
「最後までプレイしたのは初めてなんですけど、こんなに物語があるなんて知りませんでした」
 杏里が眼鏡を外して、目尻に浮かんでいた涙を拭う。それを見て、新羅が苦笑した。
「あは、このエンディング、初めて見ると大抵泣いちゃうよねぇ。キャラクターの可愛さを裏切る離別エンドってのも、人気の一端を担ってるんだろうけど」
 セルティがティッシュ箱を杏里に手渡した。
「すみません……」
 杏里は微笑を浮かべる。セルティは、じっと杏里を伺っていた。その涙がゲームに感動しているものなのか、それ意外が原因なのか、セルティには判別つかなかった。
 そんなことは露知らず、絨毯に置かれた杏里の眼鏡を、新羅が不意に取り上げた。杏里がそれを追いかけて視線を上げる。眼鏡の上から眼鏡を覗くという、奇妙な動作をする新羅を、セルティが嗜めた。
『こら、新羅。返してやれ』
「えへ、ちょっとかけてみてもいい?」
 そう言いながらも、新羅は既に自分の眼鏡を外している。杏里は呆気に取られながらも、こくりと頷いた。
「おぉ、結構度が入ってるねぇ」
「小さい時からなので……」
 杏里は涙を引っ込めて、苦笑しながらそう言った。新羅は杏里の眼鏡をかけたまま、ぐるりと周囲を見回した。
「僕も子供の時からだなぁ。もはや眼鏡は体の一部だよ」
 そう言いながら、新羅はさも当然のように自分の眼鏡を渡して来たので、杏里は思わず受け取ってしまった。躊躇いがちに顔の前に掲げ、新羅に促されるままにかけてみる。
「あ、結構キツいですね」
 眼鏡について会話を交わす二人の横で、セルティは無言で肩を震わせていた。新羅と杏里はそれぞれの眼鏡を交換したまま、セルティに視線を向けた。すると、セルティがぱたりと絨毯に転がった。杏里は驚いてセルティの体に手を伸ばす。
「ちょっとセルティ、何笑ってるの?」
 新羅の発言で、杏里はようやくセルティが笑っているのだと気付いた。良く見れば、腹を抱えて肩を震わせ、確かに笑っているようだ。首元から、不規則に黒い靄が吐き出されている。
『魔女の宅急便』
 セルティは息も絶え絶えといった様子で、投げ出されたPDAに打ち出した。その際に伸ばした影さえも、心なしか震えている。
「トンボ!? トンボって言いたいの!? あ、でも、魔女に恋する少年って、セルティに恋する僕と状況が似てない? 魔女の宅急便、妖精の運び屋、うん、中々悪くない。悪くないけど、それにしても笑いすぎだってば!」
 ツボに入ってしまったのか、セルティの笑いの発作は中々治まらない。新羅は不貞腐れた顔で杏里の眼鏡を外した。杏里もそれに倣って、新羅に眼鏡を返す。
「どうやら丸眼鏡は、美少女にしか許されない神聖なアイテムだったらしい。さぁセルティ、君の恋人が戻ってきたよ! いい加減笑い止んでおくれ!」
 愛用の眼鏡を装着し、新羅がセルティに話しかけるが、セルティはまだ絨毯の上をごろごろしていた。



作品名:ホーム スイート ホーム 作家名:窓子