人形遊びは嫌い
首を、波江の手からおそらく折原の大きな手が浚った、そうだ、いつだって男たちは自分よりも首を優先させる、そしてそれを選択したのは自分なのだ、溢れても涙が湧き続けるまま、波江は現実を見ようとした、少女を押さえつけて、今まで通り捨て置いて、自分を見ない男をも見ようとした、羨望と嫉妬と複雑な感情をもって生きねばならない呪いを、受け入れるだけの強さも弱さも慣れたものであった、赤くはれた目蓋を自らの意志で開く、それを、それを、唐突に、折原が、遮った。大きな、温かな指が、波江の涙をぬぐっていた。諦めではなく、驚きから波江は目を見開いた。折原が浮かべるとは思えないほどの、優しみに満ちた笑顔が在った。後から後から出てくる涙を、折原はずっと、黙って、例えば慈愛と呼んでも相違ない優しさで、取り除いていく、それですら涙の契機になって、波江は一人生分の涙を、今まで涙を抑えて生きてきた思い出のすべての瞬間の分の涙を、流しても流してもまだ足りず、いつの間にか足元に転がされた生首が目に入るまではおそらく十分は要したであろう、その全てに折原は優しく寄り添った、過敏な少女は気付いていた、呆れたことに、その優しさには裏が無かったのだ!
一人生分の涙を流し終わって、真っ赤に腫らした顔を見て、ようやく折原はいつものごとく皮肉に満ちた声音で、はは、酷い顔、と笑い、けれど波江は笑えないままに、なぜなら今まで作り笑いと無表情以外を知らなかったのだ、ぎこちなく破顔する。彼女はもう首を有していなかった、代わりにその目は、首に奪われた沢山の内の一握りを、確かに、捉えて離さなかった。