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加賀屋 藍(※撤退予定)
加賀屋 藍(※撤退予定)
novelistID. 3743
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口にすれば甘く融ける

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ゆったりと音楽が流れている。
時間帯から通行の少ない道を、滑るように走る車の中で、窓の外、流れていく夜景に乗った真夜中のラジオ。
受信しているのは、伸びやかで落ち着いた大人の女の人の声だ。
彼女は木管楽器のように甘やかな声で、貴方を愛していると歌う。

◆ ◆ ◆


黒塗りの車に初めて乗ったときは、あまりの“らしさ”に「うわぁ」と思ったものだ。
とはいっても、それが日常化してしまえば気にならなくなるもので、今では車自体よりも車外の方がよほど気にかかるようになった。
遠くの美しい夜景ではなく、近くに不審な車がないか、とかであるのが受け入れがたい部分ではあるが。
しかし、綱吉が乗っている車の運転をしているのが、あの六道骸であることさえ受け入れてしまえるものなのだから、車などもとより大したことではないのだろうと思う。
(ましてや、今の骸と自分の関係を思えば……)
ここにあるのは10年前には想像もつかなかった未来だと思う。

ラジオの音楽番組を意識半分で聞きながら、つらつらとそんな事を考えていた綱吉であるが、後部座席から身を乗り出すと、『君にハンドルを握らせるくらいなら運転手になります』と宣言して以来、何も言わずにハンドルを握るようになった骸に「そういえばさ」と話しかけた。
「愛してるとか好きとか、お前は言わないよな」
「おや。言って欲しいんですか」
綱吉に唐突な話題を振られることに慣れた骸は、戸惑うことなく話題に応じる。
からかうような意地の悪い物言いは骸のデフォルトなので、綱吉も今更気にしない。
「ん~、ただの感想」
(……まぁ、言ってるのもアレではあるけどさ)
骸とは他の誰とも築けない特別な関係にある。男女であれば恋愛関係と呼ばれる類の。
しかし、男同士であることを除外しても、オレ達を世間一般でいう『恋人同士』に当て嵌めるのは難しい。
だって、それこそ告白なんてなかったし、明確な約束があるわけでもないのだから。
オレと骸は、相手の傍にまともに居続けることさえできないのだ。
前に、顔を合わせるのが1ヶ月ぶりだったとき、ふと思い立って「骸より、隼人の方がよっぽど四六時中一緒にいるよね」と言ったら、片方には感激され、片方には……思い出したくもないような目に合わせられた。
実際、一部は未だに思い出せていない。思い出そうとすると、体が拒否反応を起こす気がする。
(ああ…その、…やることはやってしまってるわけ、なので)

ただ、こういうの何て言うのかな。
最期の時に伴にいたい人間を一人だけ挙げろと言われれば、オレは骸と答える。
骸もオレと答えると思う。
証や定められた形はなくとも互いにとって互いが特別、そんな確信だけがあるんだ。
そんなのはどうやって呼べばいいのだろうか。
運命共同体?

どっかの家庭教師みたく「事実婚だな」とは言わないで欲しい。
骸と結婚?――何の冗談だ。

ともかく、恋愛に向かなすぎる立場であることはわかっているが、甘くならない一番の要因はやはり性格だろう。
骸はさも当然のように、こんなことを言うから。
「さっきの質問ですけどね、そういった言葉は嫌いなんですよ」
「何で?」
「軽いじゃないですか」
問いかけると、ミラー越しに骸がちらりとこちらを見たようだった。
いつもと逆の位置の、二色の瞳が綱吉を過ぎる。
ハンドルを切る腕の光沢のある布地の表面で、街灯の光が弾けていくのが見えた。
それだけのことが、何だか艶かしいのが骸という男だった。
例えばね、そう言って骸がラジオのボリュームを少し上げた。
今は悲しげで綺麗な歌が掛かっている。綱吉も聞き覚えのある曲だった。特に音楽のチェックなどはしていないから、ここ最近、至る所でよく流されている曲なのだろう。
その切々としたフレーズを聞きながら、骸はうんざりした風に言った。
「こうした一時の流行り歌にさえ、何度出てくることか」
骸の言う通り、その曲も恋愛の歌だった。叶わない恋をそれでも想い続ける男の。
「誰も彼もが愛を“謳う”。世界はそんなに愛で溢れているんでしょうかね」
多用されるだけに安っぽい言葉です。

骸はそう言い捨てたし、ちょうど曲も終わったので、話題はお仕舞いになった。
あまりにあっさりとしていたので、その時の綱吉は、なるほど骸らしいなと思ったのみだった。