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立ち止まらずにすすんでゆけ

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ゆめをみる。校舎から転落するゆめ、ひゅうひゅうと耳元で風がうなる、けれど隣にツナがいる、小さい手が山本の指を握り締めている。このぬくもりさえあれば大丈夫だと山本はおもう――同時にツナが目を伏せる。するりと指が離れる。さよなら。ツナの感触がそっと抜けた、そのあと手のひらに残された寒々しさ。ツナの姿は見る見る闇の向こうへ消えていく、そして山本は一人墜落し続ける、暗闇のなかを。永遠に。永遠に。えいえんに。


朝もやが引いていく。
空は澄明な光にほとんど満たされきった。
山本は、からっぽのこぶしにも窓にももう目を向けなかった。ほんの短い時間だけ耐え切れずあふれた感情は再び押さえられ、走り出した足取りはしっかりしていた。一歩ごと、暗い窓は背中越し遠ざかっていく。傍で見るものがあっても、うつむき気味の形いい横顔からは、何も読み取れなかっただろう。
さだめられた未来を生きることだけがいま唯一残された糸だった。そこで生きている山本武が本物の山本武だとはどうしても信じられなかったけれど。
ツナ、それがおまえの望みなら。
ほんとうに、ほんとうにおまえが壊れないでいるためにそうしてほしいと、望むのなら。
新聞配達の自転車が追い抜いていく。カゴに突っ込まれた新聞の大きな印字が目の端に入る、イタリアで――。(考えてはいけない) 山本は自制の効いたペースで走り続ける。(考えてはいけない) 足の裏から響くリズムと、呼吸の音、それが頭の中のぜんぶ。(ツナ、いつまで? いつまでオレはこうやっていれば?) ランニングコースはもうすぐ終わる。帰れば朝食が待っているだろう。(あの日始まったことは、こんなふうに終わらなくちゃいけないものだったのかツナ) けれど山本は次の一歩を踏み出すことだけ考える、いつかこの道が途切れたとき、手繰り続けた糸が終わるとき。そのときどうなるのか、どうするのか ――深い亀裂がもう見えていたとしても、ただ振り返らずに進んでゆけ、この現実を一歩一歩。