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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の恋

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ー鬼も恋をするのでしょうかー
「行くぞ、トシ」
「はい」
近藤と土方が並んで歩いている。その後ろを沖田を筆頭に大勢の隊士がついていく。普段は着崩している制服をきちんと着て、腕には黒い腕章をつけていた。
「よい天気ですね」
「ああ、これから暑くなるな」
後ろについて来る男達は黙って歩いている。
「加藤はいくつだったかな」
「二十五です。先日結婚したばかりでしたね」
「結婚か。いいねえ。俺もしたいよ」
近藤の本音ともとれる言い方に、土方が静かに笑った。
「三番隊は人員の補充が必要ですね」
「ああ」
近藤率いる真選組の一行は一軒の家の前で止まった。
そこでは葬式が行われていた。小さい家で、近所の手伝いらしい老婆が近藤を見て会釈をし、奥へと走っていた。家の奥から若い女と老婆が出て来た。近藤がお辞儀をした。
「焼香にあがらせていただきました。よろしいでしょうか」
喪服を着た女と老婆が深くお辞儀をした。
「はい、もちろん。わざわざ御足労を煩わして申し訳ありません」
若い女の方を見て近藤はまだ結婚して間もないと言われた事を思い出し胸を痛めた。
「主人も待っておりました」
こざっぱりした家の中に質素な祭壇と棺が置かれていた。
近藤が焼香をする。続いて土方も焼香をした。その後隊士が次々と焼香していく。若い隊士がうっすらと涙を浮かべていた。
座ってその光景を見ていた若い女に近藤が声をかけた。
「このたびの事は全て私の力不足が原因です。申し訳ございません。この償いは一生させていただきます」
近藤が畳に頭をつける。声は静かで重々しかった。
「近藤さん、お顔を上げて下さいまし。あなたのせいではありません。主人もきっとそう思っております。あなたに感謝している・・・と・・・」
女の声が詰まったが、懐から白い布を出しそっと涙を拭って言葉を続ける。
「私は主人と夫婦になって良かったと思っております。主人はいつも真選組に入った事を誇りにしておりました。そんな主人を私は尊敬しております」
「申し訳ありません」
近藤は頭を上げない。
「近藤さん、あの人はあなたを慕っておりました。ですから、頭を下げているあなたを見たくはないと思うのです。どうぞ頭をお上げください」
近藤が頭を上げるとそこには背筋を伸ばし、真っ直ぐに近藤の方を向いた女が居た。近藤は黒い喪服からのぞく小刻みに震える白い手を見た。
(美しい)
そう思ったが、すぐに不謹慎だと思い直した。
「祝言を挙げたその夜に、喪服を用意する様に言われておりました」
女は微笑んだ。
「覚悟はその時からできております」
焼香すませ出て行く隊士達は外で隊列を組んだ。家の方を向いて整然と並ぶ。
「敬礼!」
近藤が号令をかけると隊士が一斉に手を額の方へ挙げた。
ざっという音が当たりに響く。
主人を亡くした若い女と年をとった母親が深く、深くお辞儀をしている。
若い女は背筋を真っ直ぐ、年老いた母親はその背中を丸くして深々とお辞儀をしていた。
空は抜ける様に青く、どこまでも雲は見えない。
その空をもう一生見る事はないかの様に、二人の女は近藤達が見えなくなるまで頭を下げていた。
空は青く、何もかもが見えるようだった。

隊士達は駐屯所の方に向かって歩いていた。
沖田はその列からはなれ、一人で違う方向へと歩いていった。
誰も気がつかなかった。駐屯所で沖田を見かけない事にも特に気にする者はない。いつもの様に、どこかで油を売っている事が分かっていたからだ。しかしこの男だけは違った。
「あいつ、またサボリか」
土方がぼやく。
「土方さん!今日行きますよね」
忙しく動きまわっていた若い隊士が声をかけた。
「ああ、もちろんだ」
書類に目を通したまま土方が答えた。すべてが日常に戻っていった。

沖田は一人で居酒屋に来ていた。黙って扉を開ける。
「あ、いらっしゃい、沖田さん」
「どうも」
新八が沖田に連れて行かれた居酒屋だった。そこは真選組のたまり場となっている。
そして、仕事場でもあった。
「ずいぶん早いですね。7時からでしょう?」
「直帰でさあ」
沖田が無邪気に笑う。
「いつもの下せえ」
「ダメです」
「え?!」
意外な答えに素っ頓狂な声を出した。それはとても幼い感じがする。
「なんでさ!」
「近藤さんから飲ませるなって」
アニさんは笑いながら手を動かしている。
「なんでだよ」
今度はぶっきらぼうに言い、ふくれてみせた。
「最近お酒の量が多いんじゃないかって」
沖田は最近2度ほど泥酔して次の日仕事にならずに近藤からやんわりと諭された事を思い出した。
「今日はいいだろ?」
「今日が駄目だと。羽目を外しやすいから」
「ちぇっ」
沖田はそれ以上何も言わなくなった。アニさんと呼ばれていた男の仕込みの作業をじっと見る。
「何作ってるんでぃ?」
「九条ネギの良いのが入りましたんでね、アサリと一緒にぬた和えにしました」
「ふーん。ネギ、嫌れぇだ」
アニさんがくっくと笑う。
「好き嫌いが多いですねえ」
近藤の言葉を思い出して不機嫌になる。
「近藤さんにも言われやした」
下を向いてぼそっとつぶやく。
「いいんだよ、食べられなくったって。死ぬ訳じゃあるめえし」
「そんな事言わず、一口食べてみなさいよ」
アニさんがボウルからネギをつまみ沖田の口元に持って行った。
「いらないよ」
沖田はそっぽを向く。
「いいから」
アニさんが沖田のあごをクッと持ち上げた。沖田が口を開け舌をだす。
口にネギのぬた和えを放り込まれると、沖田は仕方なくよく噛みもしないで飲み込んだ。
「美味しいでしょ」
「かすかにマヨネーズの味がする」
「へえ、隠し味に」
「マヨネーズは世界一嫌いだ」
今度はあきれてぶっきらぼうに言い放つ。
(知ってるくせに)
アニさんはにっこり笑って手を洗った。それをちらりと見て沖田は椅子から立ち上がり早足に階段へと向かう。
「上借りるよ」
手すりに手をかけてアニさんに声をかけた。
「昼寝ですか?」
「ああ、今日は疲れた」
そう言って上がっていった。
部屋に入ると沖田はおもむろに制服を脱ぎだした。
沖田が脱ぐたびに微かに線香と汗の匂いがたちのぼる。下から上って来たアニさんが少し驚いた顔で沖田に声をかけた。
「あれ、沖田さんそんな格好して」
Tシャツと下着一枚になった沖田にアニさんが少し困ったような顔をして笑った。
「この服、嫌いでい」
そう言う沖田を尻目に、アニさんが沖田が脱いだ服を手早く衣紋掛けにかけていく。ふと手元に持った沖田のマフラーをみて声をかけた。
「血が付いてますよ」
「ん?ああ、先日のかねえ?」
「洗っておきますか」
「んーいいよ、明後日洗濯に出すから」
そう言ってごろんと畳の上に寝転ぶとアニさんが苦笑して下に行く。そしてすぐに着替えを持って上がってきた。
「着替えなさいよ。風邪引きますよ」
そう言われて渋々沖田が体を起こすと今度はアニさんに背を向け、着ていたTシャツを脱ぎだした。鍛えられた無駄のない体が現れる。そして畳に置かれた浴衣を羽織り、帯を前に結わくといつものアイマスクをつけてごろんと寝転んだ。すぐにすうすうと寝息が洩れると、アニさんは少しの間沖田をみつめてからまた仕込みへと戻った。
作品名:鬼の恋 作家名:きくちしげか