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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の彷徨奇譚

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「鬼の彷徨奇譚」
「おい、トシ。その書類に目を通したか」
「え?ああ、まだです。すいません」
土方が手にした書類を落とした。綴じられていないそれは床に散らばっていった。
「使い物にならない土方さんより、俺を副局長にしやせんか?近藤さん」
沖田がそう言いながら笑って部屋に入ってきた。
「・・・ああ、それもいいかもな」
意外な言葉に沖田がびっくりして土方を見ると少し顔を歪めた。
「土方さん、熱でもあるんじゃあねえですか?」
椅子に座って自分の机にある書類に目を通し始めたがすぐに飽きたらしく土方に輪ゴムを飛ばす。鬱陶しそうに輪ゴムを払うと沖田が口を尖らせた。
「雪が降りやすよ、今日はきっと」
「ああ、そうだな」
それは暑い夏の日の会話だった。

「トシ、おめえ休暇とれ」
近藤が土方を呼び止めて言った。
「は?なんでまた」
とは言ったが、土方にもその理由が分かっている。隊士の前にいるときはそんな素振りを見せなかったが、人が見ていない所で考えるように黙る事が多かった。近藤がそんな土方の様子に気がつかない訳が無かった。
「やっぱり、そうですね。来週1週間休暇とれそうですかね」
その言葉に少しだけ安堵した近藤が人懐っこい笑顔で土方の肩を叩く。
「今ある書類だけでもとりあえず目を通してくれ。後はなんとかする」
土方は机の書類の束をみてため息をついた。
「とりあえず今週はデスクワークですね」
「ああ、まあいいだろう。たまには」
あれ以来日々は何事も無く過ぎている。長期の休暇をとる前日に近藤が昼食をとりながら土方に話しかけた。
「トシ、あの子の事は考えるな。おめえが悪い訳じゃねえ。運が悪かったんだ」
相変わらずマヨネーズをそこら中に乗せて食べている土方に苦笑しつつ近藤がいつもの様に軽く言った。
「分かってます。別に気にしてません」
「そうか、ならいい」
近藤と土方の間に流れるものはいつも変わらない。その事を確認した近藤はしばらくいなくなる相方の事を信じて待つ事にした。

「あれ?今日は土方さんお休みですかい?」
沖田が屯所の在籍札を見て言った。
「今日から一週間休みだ」
近藤が濡れた顔をタオルで拭きながら席に着いた。
「へえ、本当に休暇取ったんだ」
アイスバーを口にくわえながら沖田は誰ともなく言った。
「ちょっとは涼しくなりますかねえ」

部屋の真ん中で寝ているといろんな事を考えちまう。
とりあえずどこか行くか。
めんどくせえ。
部屋には何もない。天上の木目の模様が人の顔に見えたりする。
別に怖い訳じゃないが、俺が斬ってきた奴らの顔に見えたりする事がある。
(ばかじゃねえか)
そんな時期はもうとっくに過ぎた。
斬った奴の顔なんていちいち覚えちゃいねえ。
斬った人間に後を追っかけられてうなされる時期はとっくに過ぎた。
でも。
あの子の顔だけはそんなによく見た訳じゃないのに覚えてる。
写真だったか、いや写真は撮れなかったんだ。
あれはいつもあの店の中にいた。
報告書と近藤さんの彼の姉からの聞き取りを読んだんだ。
万事屋の坊主と似ているって言ってたな。
だからイメージしやすいのか。
万事屋の坊主の顔なら知ってる。
それとシンクロしているだけだ。
そして天上の木目には万事屋のバカの顔が見えた。
グニャグニャとしてあのバカに似たやる気のねえ顔だ。
万事屋のメガネの坊主はどんな顔をしていたか。
さっきあの少年とシンクロさせたばかりだというのに、もう忘れちまった。

囚われる。
死人に。

外に出て飯でも食うか。酒でも飲むか。
昼間から酒を出しているのはあそこだけだ。
気が重いのはなぜだろうな。
ああ、あのバカがよくあの店に来てるからか。
甘く煮た小豆を飯に山ほどかけて食うんだぜ。バカかよ、っていうかバカだよあいつは。
「どおってことねえ」
小さくつぶやくと気の重いのがはれるかと思ったが、そうでもなかったな。
とりあえず。
行くか。

土方が外に出るとむっとした熱気が肌にまとわりついた。
ここ2、3日で急に暑くなった江戸の夏は湿気が多く、肌にしっとりとまとわりつく。
「ありゃ、土方さん」
土方に声をかけた人間がいた。聞き慣れた声にどことなく安堵を覚える。後ろを向くと、沖田が手にかき氷を持ちながら歩いていた。
「おめえ、勤務中だろ」
土方がいつもの癖で沖田をとがめた。
「へえ、あんたは休暇中。今は俺の上司じゃありやせん」
「そんな事あるわけねえだろ。とっとと見廻りしてこい」
沖田がへーいと言ったまま土方を追い抜いて行った。
「土方さん、あんた死臭がしますぜ」
追い越し際に掛けられた言葉に土方がドキッとする。しかし、いつもの事だと思い直して唇をキュッと上げてみた。
「心理作戦に出たのかよ」
「へえ、いえ、違います。本当でさあ。囚われてるみてえだ」
沖田が振り向いて言った。
「土方さん。あんたを倒すのは俺でい。そんな亡霊とっとと斬っちまいな」
ざざざっ。
沖田がカップに残っていた氷を口に開けた。
口の中が赤く見える。
(人喰いだな)
視線を外し黙って歩いて沖田を追い越した。
「気晴らしに2、3人斬ってくりゃあいい。すっきりしやすぜ」
後ろから掛けられた沖田の言葉に土方が苦笑した。
「もうそんな時代じゃねえよ」
小さくつぶやいてそのまま歩いて行った。

「銀さん!ちょっと!」
スーパーの袋を持って走る新八の前を銀時がふらふらと歩いていた。新八の後ろには神楽が定春とはしゃぎながらついてきている。
「待って下さいよ!」
新八は大きな声を出して後ろを振り返った。定春と神楽は飛びついたり蹴り飛ばしたりと片時もじっとしていなかった。
「神楽ちゃん!もう、定春のうんこちゃんと持つ!」
スーパーの袋を振りつつ新八が大声で話す。
「メガネにやるネ!定春!遊びに行くアルヨ!」
神楽がそう言って走ってどこかへ行ってしまった。
「もう!神楽ちゃん!」
「うるせえよ、うんこぐらい持ってやれよ」
銀時が後ろも振り向かず止まって言った。
「あ、銀さん!あんた神楽ちゃん甘やかし過ぎですよ!もう少ししつけをしないとお嫁にも行けませんよ」
「俺がか?」
「あんたバカでしょ。お前が嫁に行ってどうするんだよ」

近くの公園のトイレで定春の排泄物を処理すると、銀時と新八がベンチで腰を下ろした。特に会話もなく二人でぼんやりとしていた。
「ねえ、銀さん」
新八が口を開くと銀時は新八の方を向いてううん?と言ってきた。
「あの、花田屋の件、その、僕」
そう言って新八の目に涙が浮いてきた。
「な、何だよ!おめえ、思い出した様に泣くなよ。俺が泣かしたみてえだろ」
不意の涙に銀時がおろおろして新八の方を体ごと向いた。
「す、すいません、でも」
新八がメガネを取って目をこする。
「市さんの事とか、キミさんの事とか、山崎さんの事とか、色々考えちゃって、整理がつかなくて・・・」
「おいおい。だからってこんな所でさあ」
新八が潤んだ瞳で銀時の方を向いた。
「だって、姉上や神楽ちゃんの前じゃ泣けないじゃないですか」
ううっ、うっと新八が袖で目を隠しながら泣いた。
「お前ってさあ」
「へ?」
「男の子だねえ」
銀時がくくっと笑うと新八がぎゅっと袴をつかんだ。
作品名:鬼の彷徨奇譚 作家名:きくちしげか