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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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鬼の彷徨奇譚

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「女性の前で泣くのは武士として、男として半人前だって姉上に言われました」
「神楽が女性ねえ。まあ、あの姉貴には一生頭が上がんねえんだな、お前は」
「へへっ、そうですね」
新八がゆるく笑うと、銀時もつられて笑った。
「銀さんは、やっぱり土方さんを許しませんか?」
新八の言葉に銀時が軽く目を開けた。
「おめえはどうだ。やっぱりって言う事は許さねえのか」
銀時が少し考えて質問しかえした。
「質問に質問で返さないで下さいよ」
新八がぷっと頬を膨らます。
「俺は、そうだな。あいつは嫌えだ」
「じゃあ」
言葉を遮るように銀時が続ける、
「嫌いなのと許さないのは、似ているようで違う。俺は」
銀時が立ち上がって伸びをした。
「分かんね」
新八の方を向いて銀時がにへらっと笑った。
「銀さん大人だから、色々考えちゃうんだよね」
その顔を見て新八があきれたように立ち上がる。
「あんたのどこが大人だって」
普段の大人げない所行を並べようかと思ったが、ふうっとため息をついて歩き始めた。
「新八〜。飯でも食いに行くか」
「金がねえって言ってるだろ」
新八は金の話になると急に態度が変わる。
「え、持ってきてないの?」
ふーんと鼻から息を吐いて腰に手をやった。
「一銭も持ってきてない。あったら使っちゃうから」
「・・・いいよ。銀さん少し持ってるから」
「あるならはじめに言え、っていうかまたパチンコ行くつもりだったんだろ!」
銀時が足早に公園から出て行った。
「あ。図星だろ!待て!」
新八があわてて後ろをついて行った。

「はい、お待ち」
そう言って出されたものは、あんこがのったどんぶりだった。
「うげっ、これまた破壊的な食べ物ですね」
先に来た銀時のどんぶりを見て新八がひいた。
「はい、こっちのお兄ちゃんは玉子丼ね」
新八は自分の目の前に出された普通の玉子丼を見てほっとした。
「いただきます」
「ういっ」
新八は幸せそうに丼をかき込む銀時を見た新八は、あきれて自分の玉子丼にはしをつけた。
「いらっしゃいませ」
店の戸が開いてオヤジが客に声をかけた。
「いつもの」
そこに入ってきたのは土方だった。
銀時と新八に気がついて少し驚いた顔をしていたが、昼時の店内に空いていた席は新八の隣しかなかった。
「隣、邪魔するぜ」
土方がそう新八に声をかけると、新八がその声の主に気がついてはしを止めた。
「土方さん」
銀時は土方の方を見る事なく一心不乱に小豆丼をかき込んでいる。
「新八、早くメシ食え。まずくなる」
「あ、はい」
新八が玉子丼をかき込むと、土方の前に怪しげな丼が出てきた。
「はい、いつものね」
「ああ、あと酒くれ」
そう言ってはしを取った。銀時の動きが止まる。
「昼間っから晩酌ですか。市民一人助けられないのに、昼から酒は飲む。いいご身分だ」
新八が隣を見るとはしを丼の上に置いて手を合わせている銀時がいた。
土方は黙って丼にはしをつけていた。
「新八、まだかよ」
「え、はい」
慌てて玉子丼をかき込むと、銀時が懐の財布からじゃらじゃらと小銭を出してカウンターの上に出した。
「お先」
土方の方をちらっとみてすっと席を立った。
「昼間から酒が飲めるとは、いい根性もしてやがる」
「銀さん、行きましょう」
新八がハラハラして銀時の袖を引っ張っていた。
(土方さんが許せないのは僕も同じだけど、こんな所でけんかされちゃ困るよ)
新八が銀時の方を見ると、怒っているのとは違う表情で土方を見ていた。
「何か言いいてえ事はねえか。真選組副局長さんよ」
土方が黙って酒をついでいた。
「ない」
短く言い切った土方に新八の心臓がドクンと脈打って顔が赤くなったと思うと、いきなり大声で叫んだ。
「あんたが!あんたが市さんを見殺しにしたくせに!」
新八の大きな声が店中に響くと店の中がシンとした。
今度は銀時が新八の袖をつかんでいた。みると新八の涙から大粒の涙がぽろぽろとあふれている。
「あんたが邪魔をしなければ、市さんは死なずに済んだ!」
そう言って新八が土方をまっすぐ見据えた。
「坊主、お前はあの子の親戚でも知り合いでもない、お前には関係ない」
土方は横を向いたままそう言ったきり黙って酒を飲んだ。
「そういう事らしいぜ、新八。気が済んだか」
銀時はまだ赤い顔をして唇を噛んでいた新八の腹を抱きかかえて引きずっていった。
「オヤジ、わりいな、騒いじまって」
「いえ、なに。毎度」
店の主人がそう短く言うのを聞いて銀時が新八を抱える様にして外に出て行った。

「銀さん」
外に連れ出された新八が下を向いてあふれる涙をふきもせず立ち尽くしていた。
「僕は、関係ないんでしょうか」
土方の言葉に軽くショックを受けていたようだった。
「関係ないとは言えねえな。でもあいつの言う事も本当だ」
「・・・そんな」
新八はそのままその定食屋から離れて行った。
「新八よお。どこ行くんだよ」
銀時に後ろから声をかけられたが、新八の足は止まらなかった。
「帰ります」
「どっち?」
銀時の声は優しかった。
「・・・どっちか」
「ばか、答えになってねえ」
しかし、新八はそれ以上答えなかった。
「日暮れまでには帰ってこいよ」
銀時が大きな声で叫んだ。
「暗くなってから帰ってきたらご飯抜きにするぞ!」
(恥ずかしいな!また子供扱いだ。自分の方が子供みたいなのに、っていうか晩ご飯の支度って僕がしてるんだぞ)
その大きな声を聞いて新八は顔を真っ赤にして早歩きし始めた。

先ほどいた公園とは違う池のある公園に来ていた。
(ここは沖田さんと来た事がある公園だ)
ふらふらと歩いていたらいつの間にかここに来ていた。
(僕は土方さんを許せない)
新八は自分が土方を許していない、という感情に少し戸惑っていた。
(許す?許さない?)
何を、という根本的な問いかけがあやふやなままこの感情だけが立ち上っていた。
(市さんをあそこから連れ出していれば、今頃)
そう思って新八は唇を噛んだ。しかし、とも思った。
(山崎さんは真選組をあんな形で抜けたらどうなるんだろう。市さんは幸せに、少なくとも山崎さんと生きていけたん)ろうか)
自分と似た(と自分では思ってはいないが)少年を思い自分の身に置き換えようとするがうまくいかなかった。
考えずに行動する事を最近反省したばかりじゃないかと、先程の土方に対する言葉を思い出して顔が赤くなった。
そしてふと土方との約束を思い出した。首に巻いたマフラーを自分に手渡した土方の姿を思い出す。
(マフラー返さなきゃ)
しかしあんな事を言った手前面と向かって土方と会う事がためらわれた。
(休暇中だろうか)
昼間から酒を飲むくらいだから、きっと休みだろうと推測して新八は走り始めた。
道場に戻って自分の文机の上に置いてあった紙袋をのぞく。中には白い真選組のマフラーが入っていた。
(いないうちに返して来よう)
直接会って手渡すのが常識だとは考えていたが、今土方に会ってまた何かおかしな事を言うのが怖くなった新八はその紙袋を持って急いで走ってった。
走って行った先は、古く重々しい門のある屋敷だった。
『真選組駐屯所』
新八が意を決した様に門をくぐった。門のすぐ近くにいた隊士が新八をじっと見ている。
作品名:鬼の彷徨奇譚 作家名:きくちしげか