素直じゃない貴方の隣
これはとある日の夜、とある部屋での話。
「……10代目」
獄寺は痛わしく目を伏せた。
下さなければならなかった非情な決断に、あの優しい心がどんなに傷つけられただろうと思うと、いてもたってもいられない気持ちだった。
「やはりお側に…!」
その一言と共に部屋を飛び出す前に、獄寺を制す言葉がかかる。
「必要ねぇ。骸が行った」
「リボーンさん!? あんな奴が行ったら余計に10代目を傷つけるだけですよ!」
しかしそんな獄寺の剣幕にも、姿に似合わない落ち着きと風格を持った男はエスプレッソの入ったカップを優雅に傾けるだけだ。
「心配ねぇ。あいつは今、ツナに必要な言葉を理解してる。多分、俺やお前よりもな」
二人のいる綱吉の寝室がそこから見えるかのように、彼は部屋の一方向へ視線をやった。
今、ツナに必要なのは優しい労りの言葉でも、叱咤でもないのだろう。
そして、それをツナに言えるのは骸だけだ。
だからこそ骸は、誰に任せてもいいボスへの報告を「僕が行きます」と言い張った。
……本人に、綱吉に情を傾けている自覚があるのかは甚だ怪しいが。
「あいつが素直じゃねぇのは今更だが、あれだけ人の感情に聡くて、自分の感情に鈍いというのは笑えるな」
「リボーンさん……」
全く笑えない獄寺の前で、黒衣の死神はくつくつと愉しげに喉奥を鳴らしたのだった。
END
08.8.11
作品名:素直じゃない貴方の隣 作家名:加賀屋 藍(※撤退予定)