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加賀屋 藍(※撤退予定)
加賀屋 藍(※撤退予定)
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素直じゃない貴方の隣

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◆     ◆     ◆


「お前が好きだ」
そう言って、ふんわりと蕩けた表情を見せる恋人。
彼は出会った時から10年をかけて、甘いだけではない美しい姿に磨かれてきた。
磨かれたということは、その身を削られてきたということだ。
幼かった彼が持っていた柔らかなものを奪い、一点の曇りもなくなるまで容赦なく。
小さな幸せに浮かべる笑みさえ、どこか影を背負ってしまった彼が、骸には愚かしくも愛おしい。

「……ズルいですよ。君はそればかりだ」
気持ちをかわすことも、利用することも出来なかった時点で僕の負けだったというのに。
君はそう言っても「だって必死だからな」と屈託なく笑う。
「今も必死だ。お前が離れていかないように」
「離れませんよ」
「わかんないだろ、ずっと俺の片想いだったんだから」

長い片想い。
確かに君はそう思うでしょうね。
僕の気持ちがいつから君に傾いていたのか、君は知るよしもない。
僕が認めて飲み込むのに長い時間がかかっただけ、などということは。

本当は君がマフィアを解体するために、この世界で生きると決めてから、僕は君から目が離せなかった。

最初はただの観察対象だった。
沢田綱吉は、マフィアを仕切るにはおよそ相応しくない甘い人物。
すぐに何も出来ずに死んでいくか、内側から壊れていくと容易く想像できたから、いつまで保つのかに興味があった。
だが、そうはならなかった。
彼は傷だらけになりながらも、闇の世界を歩き始めていた。
ボンゴレを解体するという、己の悲願のために。

だがその弱さ故に、彼の足取りは覚束ず、濁流に押し流されかける。
それが骸には無性に苛立たしかった。
泥に沈んでしまうか、抜け出てしまえば楽なのだ。彼のように、不器用に進む必要などない。
苛立たしさから、見ているだけではいられなくなった。
崩れかけた彼を強引に立ち直らせたこともあった。
彼が泣きそうな顔をしながら、泣けずに蹲っていた夜だ。

そして、彼が僕を「欲しい」といったあの時、僕は初めて自分の中で認められない気持ちが芽吹いたのを知ったのだ。
およそ、マフィアのボスに抱くべきではない想いを。




「僕も好きですよ、綱吉くん。君を愛しています」
囁き返しながら、骸は微笑む。

君は知らないでしょう。
僕がいつから、君の全てが欲しかったか。



“泥の中で生きられないのなら、抜け出てしまえばいい。”
そこで君は傷つかずにいられる。僕もただ遠くから愛しんでいられる。

“でももし、君がここで生きると決めたなら。”
この道を歩き続ける限りいつか堕ちてくる場所が、せめて僕の下であるように。


そう定められていたことなんて……君は知らないでしょう?


定められていた通りに、君は今日、僕の元に堕ちてきた。
僕は君を優しく抱いて、夜目が利かない君の代わりに先を示す。
渦を巻く漆黒の闇で、君が自分の往く道を見失うことがないように。