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かきつばた

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そこは、静かな森だった。
木漏れ日のさす木々の枝から、鳥達が交互に囀る。
そんな森から少し離れた場所に、数名の男女が倒れていた。
「う…」
鳥の囀りに混ざって、ソウルイーターの継承者リュナンは、微かに呻いた。
「……」
意識を取り戻すと、頭だけを軽く起こした。
「!!」
辺りを見回すと、気を失う前に見ていた景色と今見ている景色が全く違う事に気付いて、慌てて上半身を起こした。
身を起こすと、目の前に長い影を見つけた。
影を追って上を見上げると、古い櫓が建っている。
そして、櫓から少し離れた所に小さな村を見つけた。
「…ここは…」
リュナンが呟くのとほぼ同時に、リュナンと一緒に倒れていた数人の男女が目を覚まし、リュナン同様に驚きながら辺りを見回している。
どうしてこんな事になってしまっているのか…。
リュナンは、気を失う前の事を思い出してみた。
トラン解放軍の盟主である彼は、吸血鬼ネクロードを倒す為に必要不可欠な武器を求め、ビクトール、クレオらと共に紋章の洞窟まで来ていた。
洞窟の奥で一振りの剣を見つけ、ビクトールが剣に触れようした時、突如眩しい光に包まれた。
そして、気がついたらこの森に倒れていたのだった。
「いててて、なんだぁ、ここは?」
倒れた時に打ち付けたらしく、ビクトールは少々痛む箇所をさすりながら呟いた。
ビクトールの横で、やはり同じように打ち付けた箇所をさするクレオは、暢気に呟くビクトールを睨む。
そして、1つ息をついて視線を村に移した。
「さあね。紋章の洞窟でない事は確かだな。
どうやら、迂闊な誰かさんのせいで洞窟から放り出されちまったみたいだね」
クレオの言葉に、ビクトールはギクッと僅かに身を縮ませた。
「ま、まあ生きてたんだからいいじゃねぇか」
慌てて言い繕うビクトールに、クレオは大きく溜息をついた。
クレオに続き、リュナン、ルック、キルキス、フリックも溜息をつく。
溜息をつきながらも、リュナンは村を指差した。
「とりあえず、あの村まで行こう」
リュナンの言葉と、考えていても仕方ないという結論から、一同はその村まで行ってみる事にした。



静かな村だった。
一見平和そうな村に見えたが、まるで隠れ住むかのようにひっそりとしている感じが徐々に伝わってくる。
リュナンも、そして彼に同行している者達も、初めて訪れる村だった。
と、その時、リュナンは自分達を木の陰からじーっと見つめている男の子に気がついた。
リュナン達が自分に気付いたのが分かると、男の子は小走りで駆け寄って来た。
「ねぇ、ねぇ、お兄ちゃんたちが、たからものを取りにきた人なの?」
男の子は不安な表情でリュナンを見上げる。
宝物とは何の事だろう…と思ったが、まっすぐな瞳で見上げて来る男の子に、リュナンはとりあえず分かっている事を話す事にした。
「宝物? ううん、違うよ」
腰をかがめ、出来るだけ男の子の目線に合わせて優しくそう言った。
そんなリュナンの表情と声に、男の子は安心したらしく、愛らしい笑顔を見せた。
「そうかぁ、やっぱりちがうんだね、良かった。
おじいちゃんがこわい顔してるから、ぼく、心配になったんだ」
男の子は、そう言うとあどけなく笑う。
と、その時、
「テッド」
少し離れた所から、老人の声が届いた。
老人の声に、男の子が振り返る。
それを確認すると、老人はリュナン達をじっと見る。
老人の表情からは、微かだが緊張の色が見て取れた。
「テッド、こっちに来なさい」
それだけ言うと、老人はくるりと背を向けてその場を立ち去ってしまった。
「はーい」
テッドと呼ばれた男の子は、返事をすると老人の後を追い掛ける様に駆け出した。
途中、ちらりとリュナンを振り返り、にこりと笑みを向けた。
その笑みと仕草に、リュナンはドキッとした。
「リュナン様…今の子は…」
男の子が走り去った後で、クレオは確認するかのようにリュナンを見る。
「……うん……」
リュナンもただ頷く事しか出来なかった。
先程の笑みや仕草、そしてテッドという名前…。
それは、親友のテッドとそっくりだった。
只1つ、今出会ったテッドが幼い子供である事を除いて…。



それから数日…。
リュナン達は様々な体験を経て、紋章の洞窟へと戻って来た。
不思議な光で飛ばされた先にあった村は、隠された紋章の村であった事。
飛ばされた時期は300年も遡る過去であった事。
その村に、あのソウルイーターが隠され、守られ続けていた事。
ウィンディがソウルイーターを狙って村を襲い、村を滅ぼした事。
そして…その時にテッドが長老からソウルイーターを託され、300年という歳月の逃亡を余儀なくされた事。
過去から戻ってきても、暫くの間は誰も口を開く事が出来なかった。
どれだけの時間が過ぎただろうか。
最初に沈黙を破ったのはリュナンだった。
「願い事って…本当に叶うんだな…」
ぽつりと、呟くように言うリュナン。
「リュナン様?」
そんなリュナンに、クレオが小首を傾げる。
「何でもないよ」
微笑みながら、リュナンはクレオに答えた。
(そうか…だからテッドはあの時、そう言ったんだ)
心の中で呟くと、リュナンは小さく微笑んだ。
(グレッグミンスターを出たあの時から、君が生きていてくれる様に…と、思い続けていたけど…。僕も、精一杯信じるよ。
だから…だから、また会えるよね)
リュナンは、1つの過去を思い出していた。



それは、まだ幸せに包まれていた頃の帝都。
リュナンが16歳の誕生日を迎えた朝の事だった。
「願い事?」
晴れ渡った青空の下、帝都グレッグミンスターの中央広場で、リュナンはテッドに問われた内容をそのまま問い返した。
あまりに突然の問いに、どう答えて良いのか分からなかったのだ。
が、テッドはおかまい無しに話しを進めていく。
「そう、リュナンにだってあるだろ? 願い事の1つや2つ」
「そりゃあ、あるけどさ。でも何だってそんな事聞くのさ?」
「叶える方法を教えてやろうと思ってな」
笑顔と共にテッドは明るく言い切った。
「…………」
そんなテッドを、リュナンはインチキ占い師か何かに出くわしたような疑いの眼差しで見る。
だが、テッドが何の根拠も無くそんな事を言うような人物ではない事に気付くと、すぐに疑いの眼差しは消えた。
しかし、それを見逃すテッドではない。
すかさずリュナンに詰め寄る。
「今、思いっきり疑っただろ」
「いや…その……何と言うか……あはは…」
一瞬とはいえ、心に思った事をあっさりと見抜かれてしまえば、リュナンは笑って誤魔化すしかない。
「…まぁ、いいや」
詰め寄ったまま、テッドは軽く息をついた。
そして、姿勢を直しながら言葉を続けた。
「願い事って本当に叶うんだぜ。
…そうだな、信じる勇気が奇跡に変わる時、願い事が現実になるんだ」
「信じる勇気?」
今度は真面目な顔で聞いてくるリュナンに、テッドは大きく頷き、更に言葉を続ける。
「だけど、ただ願ってるだけじゃ駄目なんだ。叶うと信じてどれだけ頑張れるか…だな。
頑張った分だけ、叶うと信じるその勇気が、奇跡に変わるんだ。
俺は、お前みたいな奴に会いたいと願って頑張った。
だからお前と出会えたんだからな」
「…何それ?」
作品名:かきつばた 作家名:星川水弥