再会のお別れ
「おかげさまで。お聞きになられているとは思いますが、涼宮さんの能力も落ち着きましたし、ゆったりしたものです」
「そうか」
僕の答えに対して口数が少ないのは気のせいだろうか。喋ることなんてなにもないかと僕は感傷に浸ってから、ふざけて彼を少しからかおうとした。
「あの頃は、やってはいけないことをやってみたい年頃でしたね」
その言葉に彼が揺らいだのは明らかだった。
「…ああ、そうだな」
「若気の至りというやつでした」
「そうでもない」
僕が彼を見やると同時に、自販機のなかでドリンクの落ちる音がガコンと響いた。
「俺は今も気持ちは変わらないと言ったらどうする」
彼はしゃがみこんで取り出し口からペットボトルを手に取った。
その態度は至って淡々としていた。僕は目が泳いで、持っていたあたたかいペットボトルをひとつ落としそうになるぐらいには動揺していた。そよぐ風は花の匂いがして、少し冷たかった。
「……悪い冗談です」
彼は立ち上がる。もう人数分のドリンクは買い揃えた。
「僕はあなたのことを忘れていました」
彼は最後まで、僕の顔をまっすぐに見ようとはしないのだった。
どうしてあんなひどいことが口を突いて出たのかよくわからない。あまりに衝動的なひとことだった。ただあの頃の僕は、彼のことをとてつもなく悲しいぐらいに好きでいたから、きっとせめてもの仕返しだったのかもしれない。
時計は午後十時を回っていた。彼は今頃部屋でうなだれているだろうか。僕は彼を傷つけた優越感で胸がどきどきした。残っているアルコールが密やかな頭痛を迎えていて、視界は少しぼんやりしていた。
僕を思い知るといい。僕がどんなにあなたを好きだったか、今も気持ちは変わらないなんて口にできるぐらい、僕の思いも軽率なものだったらよかった。