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Days / after my life

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「ああもう!こんなんじゃ、最初の日に素直に殺されてたほうがマシだったんじゃないかって気さえしてくるよ俺は!」
癇癪を起こしたガキのように、俺はムカムカする気持ちを押えきれなくて叫んだ。そうでもなければ泣いてしまいそうだ。あの美しい目に殺されたまま、生き返らず死んでしまったら、そうしたら彼は自分の誇り高い仕事の結果として、俺をずっと覚えているんじゃないか。そんなことさえ思った俺に、帝人君の目は冷たく細められた。


「本気で言ってます?」


ゾクリとするほど表情のない声だった。思わず息を飲んで、帝人君の顔を見つめる。剣呑な空気をまとった帝人君が、ただ静かに、俺を真っ直ぐに見返した。
「答えて。本気で言ってるんですか」
その声に、うかつな返事は返せない。
俺は息を飲み込んで、何がこれ程鮮やかに帝人君の態度を変えたのだろうかと思案しながら、答えた。
「・・・嘘、だよ。今の方がいいに決まってる」
「本当に?」
いつでも殺してあげますよ?声に出さずにそう言っているような声に、息を吐く。感情的になりすぎた少し前の自分を反省し、努めて冷静に、その刺すような空気をまとう帝人君をしっかりと見つめ返して。
「本当だよ、まだ君にキスもしてない」
正直に答えた。半分、受けを狙ったってところもなきにしもあらずだけれど、紛れもない本心には違いない。
俺の言葉に眉を少し潜めた帝人君は、大きく息を吐くと同時に、とん、と軽く床を蹴った。
「っ!」
休息に目の前に迫った帝人君の顔に、思わずのけぞろうとした体を押される。そのまま胸を膝で抑えられるような格好で後ろ向きにベッドに真っ逆さまだ。
「・・・ちょっと、マジで・・・っ」
「煩い」
「気に障ったなら謝るから・・・っ!」
こんなに簡単にもう一度死ぬなんてありえないだろう。本気で泣きそうになりながら帝人君を見上げると、帝人君は最初に会った日のような感情の読めない表情で、けれどもその冴え冴えとした瞳は美しく澄み、俺をただ射ぬくように見つめて。
その手が、首に当てられている。
息を飲んで歯を食いしばった。いつ力を加えられるかわからない手に恐怖を覚える。背中に冷や汗が伝っていくのを感じながら、帝人君のことだから素手で人を殺すのも簡単なのだろうなと、現実逃避のように考えた。
その時だ。


唇に、温かいものが触れる。


「・・・っ!?」
すぐに離れたけれど、今俺の唇に触れたのは、帝人君の・・・?
「それで?」
ただ顔が赤くなるのを感じながら、ぱくぱくと口を動かし、俺はパニック状態の頭をなんとか鎮めようと息を吸って吐く。そんなことをしている俺を見据えたまま、帝人君は俺の上に乗っかった体勢のままで尋ねた。
「キスしましたけど、まだ死にたいですか?」
「・・・死にたくないよ、もっとキスしたい」
「ふうん?」
もう一度、今度は少し笑った帝人君が顔を寄せた。心臓が馬鹿みたいに大音量で鳴り響いている。あと3センチほどの距離で止まった帝人君が、馬鹿ですねとささやく。
「あの時死んでたほうが良かったなんて、もう二度と言わない方がいいですよ。僕が怒ります」
「・・・了解」
「あと、あなたは人間なんですから、空気読んでください」
何の空気を読めって?と問い返さなかっただけ俺偉い。答える代わりに帝人君の形の良い頭に触れて、目の前にぶら下がった餌状態のその顔を引き寄せた。
空気を読んで、俺の方からガッつかせていただきます。
「・・・ん」
ゆっくりと唇に触れて、丁寧に重ねる。ぬくもりを確かめるように何度か軽いキスを繰り返してから、舌で唇をノックして口を開けてもらう。
「っふ、・・・っ、んっ」
絡めた熱い体温に、くらくらするほど煽られる。鼻にかかるように漏れる帝人君の声が、理性を少しずつ削っていく。色っぽい。何この子、怖いくらいそそるんだけど。
上になっている帝人君の口内を執拗に犯し、唾液で濡れたその唇の色に背筋がゾワゾワする。ああ、やばい。帝人君の言うとおりだ。俺、本能に忠実すぎるかも知れない。
華奢な腰を抱いて、くるりと体勢を入れ替える。白いシーツにぱらりと広がった黒髪にさえゾクリとする。熱い息を吐き出して、その首筋に顔を埋めようとした俺の顔に、帝人君の手のひらが添えられた。


「はい、そこまで」


「いっ・・・!」
ぐぎっと。
首を回されて、余りの衝撃に変な声が出た。ちょっと待ってそりゃないでしょ帝人君!空気読んでよそっちこそ!
ひりひりする首を押さえて崩れ落ちれば、下敷き状態の帝人君は耳元で大げさなくらいのため息をつく。そんなことにも背筋がぞわぞわするのでやめてほしい。
「だから言ったでしょう。僕の危惧が裏付けされましたよね、今ので」
「・・・だって帝人君が誘ったんだもん・・・」
「誰がキス以上していいと言いましたか」
ほらとっととどかないと急所蹴りますよ、と脅し文句つきだ。容赦ない。やめてマジ痛い。
しぶしぶ離れれば、帝人君は軽く反動をつけて起き上がり、何事もなかったかのようにベッドから脱出した。その冷静な表情を見るにつけ、興奮していたのは自分だけかと思うと惨め過ぎる。
帝人君は本当にずるいなあと思う。俺をこんなに本気にさせて。
「次やったら本気で急所蹴りますからね」
「殺すと言わないところを愛だと思っておくよ・・・」
ため息をつきながら答えれば、帝人君は小さく笑って俺の頭をくしゃりと撫でた。
「もう、殺せませんよ」
言葉の意味がよくわからない。俺は撫でる手に合わせてベッドに座りつつ、首をかしげる。
「いやいや。俺を最初に殺したの誰だよ」
「だとしても、今は殺せませんよ」
帝人君は、何がおかしいのか今度こそ満面の笑みを作って、そしてこんなことを言いきった。



「殺せません。愛してしまったようなので」



笑顔は、年相応に幼く、無邪気に。
そして俺はといえば、そんな爆弾を落とされて無傷のはずもなく。
「・・・少なくともそれは、殺し文句だと思うんだけどなあ」
死にそうだ、と呟いた。
幸せに殺されるなんて、あり得ない。一気に体温が跳ねあがった俺の頬をつついて、帝人君はもう一度笑う。鮮やかに。
「リンゴみたい」
「・・・るっさい」
ベッドに座った状態から、すぐそばに立つ帝人君を見上げ、せめてと睨みつけたけれど、真っ赤になった顔では迫力も何もない。殺された日に芽生えた俺の恋は、ここにきてようやく生かされたようだ。ああ全く、なんて、人生っていうやつは面白い。
睨みつけた先で帝人君は、目を細めて顔を寄せた。
「照れ過ぎ」
「・・・るっさいってば!」
「ふふ、可愛い」
頬に落とされた唇の優しさに、もう俺はどうすりゃいいのか分からなくて、もう一度伸ばそうとした手はやっぱりたたき落とされて、ああもうだから。


完敗だよ!
作品名:Days / after my life 作家名:夏野