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想いまであと少し

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私くしは、兄と一緒に独逸に来ておりました。
ビジネスメインの訪独でしたので、どうしても私くしが立ち会えない場がいくつかありました。
その間、一人になってしまう私くしを心配して、兄はルートさんをお呼びしたのです。
兄も忙しい人ですが、ルートさんもそれ以上にお忙しいことは存じておりましたので、何度も一人で大丈夫ですと申し上げたのですが、兄は頑として聞きいれてはくださいませんでした。

「どこか行きたい場所はあるのか?」

商談へと急ぐ兄を見送って、ルートさんはこれからのプランを検討しようと言ってくださいました。行ってみたい場所はたくさんありましたが、それが今日でなければならない、ということはありません。
わざわざお休みの所を来て下さったルートさんにも、ゆっくりしていただきたいという思いもございました。

「できれば、街の中をゆっくりと見て回りたいのですが」
「そんなことでいいのか?」
「はい。可愛らしい建物が多くて、とても素敵ですもの」

ルートさんは拍子抜けされたようですが、私くしが是非にと申し上げますと、ちょっと照れくさそうに微笑みながら、ありがとう、と仰ってくださいました。
自分の国の街が褒められると、嬉しいものですよね。

それから私達は、ルートさんのエスコートで、旧市街地の散策を楽しみました。
ルートさんが、建築物や湖の由来や歴史、ちょっとしたエピソードなども交えながら、懇切丁寧に教えてくださいますので、厭きる暇もございません。
心なしか誇らしげなご様子で話されるルートさんが、微笑ましくもありました。

「ここで恋人たちは、休暇を満喫していたんだそうだ」
「素敵なところですものね」

ここはまるで絵本にでてくるような風光で、私くし、本当に大好きです。
それに行き交う人々も穏やかで、街の方も気がねなく私達に声をかけてくださいます。

「一杯どうだい?」
「ああ、いただこう。あ、いや、すまん、」

ビールジョッキを前に、ちらちらと私くしを窺うルートさん。
その葛藤されているご様子が可愛らしくて、私くし思わず笑ってしまいました。
その場にいらしたおじ様やおば様方も笑っていらっしゃいます。
「ほら、許可がおりたぞ」とおじ様に差し出されるままに、ルートさんはジョッキを手にされましたが、まだ迷っていらっしゃるようでした。

「しかし、」
「せっかくのご好意ですもの」
「そ、そうだな」

もっともらしく頷いていらっしゃいますけれど、笑顔万面ですわよ?
大きくなられてからは、しかめつらしい表情を拝見する事が多くなってしまいましたが、このように笑っていらっしゃる姿は小さい頃のままです。そんな姿を見ると、私も嬉しくなってしまうのです。

「気持ちいい飲みっぷりだね!」 

もちろん、ルートさんが一杯だけで終わるわけがなく、二杯、三杯と、勢いよく飲み干していきます。その度に周りの方からは歓声があがり、次々に空になったジョッキがデーブルに並んでいきます。本当に、とても美味しそうに飲まれますのね。
でも、そろそろお止めした方が良いかもしれません。
そんなことを考えておりますと、私くしには聞こえませんでしたが、おじ様が何かルートさんに話しかけました。

( 可愛らしいじゃないか、あんたのイイ人かい? )
「?!ゴホゴホゴホッ 」

するとルートさんは、ピタリと飲む手をとめると、それは盛大に咽てしまわれました。胸をたたいたり、水を飲んだりして、なんとか治めようとしておりましたが、器官にはいったのか、しばらく辛そうに咳き込んでおりました。
私くしにできることといえば、背中を撫でて差し上げることだけでした。
その背中の大きさと堅さに、少しドキリとしたのは内緒です。

「ありがとう、もう大丈夫だ。」

お店の方やご近所の方も、あれやこれやと心配してくださって、ようやく落ち着きました。
私たちは皆様に感謝の言葉を述べ、お土産にとビールを1ケース購入すると、宅配していただけるようお願いいたしました。
そして皆様にもう一度お礼を言って、その場を後にしたのでした。

それからの道行き、ルートさんは言葉少なめで、さきほどの一件で少々落ち込んでいらっしゃるようでした。私くしは気になどしておりませんが、失態を見せたと感じていらっしゃるのでしょう、とても真面目な方ですから。
こういう時には、安易な慰めの言葉などをおかけすると、ますます気持ちが沈んでしまうものですから、私くしも無理に話しかけずに街中の散策を楽しみました。


作品名:想いまであと少し 作家名:飛ぶ蛙