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想いまであと少し

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「少し休憩しませんか?」
「…ああ、そうしよう」

小さくとも緑美しい公園のベンチに、私達は並んで座りました。
よく手入れをされた芝生からは、ファミリーやカップルが楽しそうにしている賑やかな声が聞こえてきます。

「その、すまない」
「楽しかったですね」

決まり悪そうに謝罪の言葉を口にするルートさんに、私くしは笑いかけました。
もう一度なにか言い出しそうにしましたが、ルートさんは一つ息を吐くと、俺も楽しかったと笑ってくださいました。
ジュースを片手に(ルートさんが買ってきてくださいました)、歩いてきた道筋をまたあれこれと話しこんでおりましたら、ちょうど兄からメールが届きました。
商談も無事に終わり、わざわざ、この公園まで迎えにきてくださることになりました。
ルートさんも夕食をご一緒してくださるとのことで、二人一緒に兄を待つことになりました。

「そういえば、あのおじ様。何とおっしゃったのですか?」

実はずっと気になっていたのです。
普段は冷静沈着なルートさんが、どうしてあんなに動揺なさったのか、どんな言葉をかけられたのか、とても興味があったのです。

「言わないとダメか?」
「できれば教えていただきたいと思います」

ルートさんはしばらくの間、腕を組んだり、首を撫でたり、口を覆ったりして、悩んでいらっしゃいましたが、意を決したのか、息を大きく吸って、私くしの方に向き直りました。

「驚かないで聞いて欲しい」

私くしが力強く頷くと、ルートさんも頷きました。
そして、まだちょっと言い戸惑いながらも、私くしの質問に対する回答を教えてくださったのです。

「貴女と俺は、その、恋人同士なのか、と」
「!?」

とても意外な回答でした。想定の範囲外です。
私くし、あまりに吃驚したものですから、しばらく動けませんでした。
ルートさんも私くしの驚きように驚いてしまったらしく、同じく、動きをとめてしまいました。

(兄弟に間違われることはあっても、恋人だなんて!)
(他の方にも・・・そういう風に見えていたのでしょうか?)

私たちはただじっと、互いの顔を見つめあいました。
時が止まる、という感覚を、初めて体感したように思います。
聞こえていた筈の、周りの笑い声や小鳥の鳴き声は遠くなり、ただ胸の鼓動の音だけが大きく響いておりました。

「俺は、」

先に切り出したのはルートさんでした。
挑むようにこちらを見つめる透き通るほどに青く煌く瞳には、どちらにも私くしが映っておりました。それがなんだか不思議に思えて、吸い込まれるように私くしもルートさんを見つめました。

「俺はずっと、」

両肩にルートさんの手が添えられて、その部分だけがひどく熱いと感じました。
ルートさんが息を吸うと両手にぐっと強い力がはいり、私くしの貧弱な肩など折れてしまうのではと思ったほどです。
痛くなかったといえば嘘になります。それでも、私くしは、ルートさんの瞳から目を逸らすことなどできませんでした。

「俺はずっとあな」
『着信である!早く電話にでんかっ!着信である!早く電話にでんかっ!』
「きゃっ」

突然、時が動きはじめました。
その切っ掛けは、兄に特別にお願いして入れて頂いた携帯電話の着信音でした。

「び、びっくりしました」
『着信である!早く電話にでんかっ!着信である!早く電話にでんかっ!』
「…なんだ、その着信音は」

私くしもルートさんも、目が覚めたように目を逸らしました。
とても大事なことをお話してくださるようでしたのに、申し訳ない気持ちで一杯です。
私くしとしたことが、マナーモードにしておくべきでしたわ。
それにしても、また気になることができてしまいました。
(「あな」がどうしたのでしょうか?)


『着信である!早く電話にでんかっ!着信である!早く電話にでんかっ!』
「早くでてやってくれ」

ルートさんに促されて、私くしは慌てて鳴り続ける携帯電話の通話ボタンを押したのでした。
電話の相手はもちろん兄でした。
公園の近くまで来たので、所在確認の連絡をくれたのです。
すぐ近くまできていると案内しておりますと、視界の中に兄の姿を見つけました。
ルートさんと一緒に手を振っておりましたら、兄もこちらに気づいたらしく、手を上げて合図をすると電話を切りました。

「私くし達も兄の所に参りましょうか」
「ああ」

そう言って歩き出したのですが、ルートさんがさっと私の前に回りこんでしまいました。
驚いて足をとめますと、先ほどの挑むような眼差しで私くしを見つめながら、

「近い内に俺は貴女の国へ行こうと思う、」

いや必ず行くから、とルートさんは仰いました。

「だから、その時には最後まで話を聞いて欲しい。」

先ほどの話の続きのことだと分かりました。
なぜでしょう。なんだかとても嬉しいような、ドキドキするような、不思議な気持ちです。

「はい、お待ちしております。」

私くしがそうお答えしますと、ルートさんはすぐに背を向けて歩き出してしまいました。
後ろから見えるルートさんの耳と首が赤くみえるのは気のせいでしょうか。
私くしの耳も同じように赤くなっているに違いありませんわ。

兄が駆け寄ってくる姿がはっきりと見えてまいりました。
ああ、どうか神様。
どうか、夕焼けのせいにできますように。


作品名:想いまであと少し 作家名:飛ぶ蛙