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わたしはわたし以外の誰にもなることはできない。

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 あいつが学校に来てたらちゃんと連れてきてね、なんて言われたところで大役もいいところなのに、反射的に頷いていたのは多分、わたし自身の願望に由来するものなのだろう。とんっと背中を押すように彼女はまるで、新しい世界を作り上げるかのように笑った。
 エンターキーを押した彼が世界を跨いだのだとしたら、本来あるべき彼はもう、この狭い部室へは足を運んで来ないだろう。誘ってみたところで家にまでは訪ねてもくれないだろう。きっとすべてを覚えていることもないんだろう。そんなことは言われなくとも勘付いていた。
 彼に声をかけることすら出来るか出来ないかと言われれば微妙なところでもあったのだけれど、わたしにしては随分と思いきったものだ。ぱちぱちっと各々開いた携帯電話で連絡先を交換してから、もうそろそろ暮れ始めている外の気配に追いやられるように部室を出る。
 教室を覗いて座席表を確認しても、彼の名前はわからなかった。わたしがそう思っているだけかもしれないけれど、それでも彼が腰を下ろしているのを良く見かけたその指定席に、なぜだかミステリーのように、鞄がひとつかけられたままだった。くるっと一回転して教室を物珍しそうに見まわしてから、
「ひとまず見回りがくる前に退散しましょ」
 涼宮さんがそう言ったのを合図のように、朝比奈先輩は荷物を取りに書道室へ戻って、わたしたちはこそこそと裏門から学校を抜け出した。ちょっと見張ってて、といって物陰で着替えた彼女たちを待っているだけの間に駆け足で夕陽は地面を染めて、唇から吐き出した息が白く濁っていく。

 洗濯機も乾燥機もある一人暮らしだからという理由で彼の体操着をまとめて袋ごと預かったのばかりは、いつも世話になってばかりの隣人に見つかって不思議がられたものだけれど。翌朝になって手提げごと紙袋に入れて、いつもより少し早めに学校に向かったわたしのことを、見咎めるひとがいることもなかった。
 どうやって声をかけようかなんて、幾らでも何ヶ月でもシュミレートしたものだけれど、いつだってわたしの心臓はそんな負荷に耐えられない。やっぱり放課後を見計らって声をかけようとこっそりと、早朝の教室に届けに行くなんて結局、わたしらしい決断をしたのに。
 あーあ、なんて、溜息を吐きだしたわたしの目の前で教室の扉が開いて、少しだけ瞬いた彼が首を傾けて、
「あれ? ああ、確か……」
 市立図書館で。だなんて言ったものだからすべては宝石箱のように盛大にひっくり返る羽目になったのだ。