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冷たい手

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僕の言葉に、カイトの顔が強張る。
次に浴びせられる言葉を覚悟して、僕は、思わず身をすくめた。

「・・・そんな」

弱弱しく震えた声に、そろそろとカイトの顔を見る。
次の瞬間、カイトの見開かれた目から、突然、涙が溢れ出した。

ええっ!?

「か、カイト?どうしたの?どっか痛いの?」
混乱する僕に、カイトは、ぼろぼろと涙をこぼしながら、
「ちが・・・っく・・・ちがい・・・ます・・・ぅっ・・・俺・・・俺・・・!!」
しゃくりあげながら、カイトは顔を上げる。
涙に濡れた瞳が、まっすぐに僕を見つめた。
「俺・・・俺の、マスターはっ・・・っ・・・あなた・・・です!!」




「あの・・・えっと、じゃ、じゃあ、よろしく、カイト」
そう言って差し出された手は、とても温かくて。

この手を、離したくないと、思った。


ずっと、怖かったんです。

「僕がマスターになるよ」

その言葉が、嬉しくて。
だけど、とても怖くて。


どうしても、「マスター」と呼ぶことが、出来なかった。



返事がなかったら、どうしよう。

拒まれたら、どうしよう。

困ったように笑いながら、

「僕は、君のマスターじゃないよ」

と、言われたら。


今度失ったら、立っていることも出来ないから。



どうしたら、喜んでもらえるのか。

どうしたら、必要とされるのか。

自分のことばかりに必死で。

あなたの優しさに、気付かなかった。



ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

俺のマスターは、あなたです。

俺は、あなたの傍にいたいです。

だから、お願いです。

俺を、ここに、いさせてください。


気がついたら、マスターの胸に、顔をうずめていた。
マスターに抱き寄せられたのだと、頭が理解した時、
「・・・ごめんね」
「・・・マスター?」
マスターは、俺の髪を撫でながら、
「ごめんね、気が付いてあげられなくて。不安にさせて、ごめん」

っ!!

その言葉に、また涙が溢れだす。
ごめんなさいとだけ繰り返す俺を、マスターは、ずっと抱きしめていてくれた。




「行ってきます、カイト」
「行ってらっしゃい」
マスターは、靴をはくと、くるっと振り向いて、
「ねえ、カイト。もうちょっと、笑顔になれない?」
「はい?」
俺が戸惑っていると、マスターは、俺を見上げて、
「怖い顔になってるよ。ご飯食べてる時も、ずっと睨んでたし」
「いや、あれは、睨んでいるのではなく・・・」

マスターの口に合うだろうかと、気にしていただけなのだが。
睨んでいると、思われていたのか。

「とにかくねえ、もうちょっと、こう、笑顔っていうか?愛想が必要だよね。せっかく、格好いいのに」
「はあ」

そう言われても、どうしたらいいのか、さっぱり見当がつかない。

俺が困惑していると、マスターは手を伸ばしてきて、俺の頬をつまんだ。
「こうして・・・こんな風に」
ぐいっと上に引っ張り上げられる感触に、「はあ」としか言えない。
「んー・・・」
マスターは手を離すと、自分の頭をかいて、
「まあ、いいや。帰ってから、一緒に練習しよう」
「練習・・・ですか?」

笑うのに、練習が必要だなんて。
俺は、おかしいのだろうか。

「そう。歌の他に、笑顔の練習。辛い時でも、笑顔でいると、自然に気持も上向くから、ね」
そう言って、マスターは、優しい笑顔を向けてくれた。
「大丈夫。僕も、最初は笑えなかったから。練習すれば、カイトも、笑えるようになるよ」
「はい」

そうなのか。

マスターが、余りにも自然に笑っているから、練習するなんて、思いつかなかったけれど。

いつか、俺も、マスターのように、笑えるのだろうか。

「じゃ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」

マスター。
いつか、俺も、あなたのように笑いますから。

差しだされた手を、握っていても、いいですか?



終わり
作品名:冷たい手 作家名:シャオ