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冷たい手

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「今、プレゼントと言われましたが、何か理由があるのですか?」
「はい?いや、理由とか、言われても・・・」
「俺には、あなたから、何かを贈られる理由が、分かりません」

・・・・・・・・・・・・・・・・。

「ごめん」
僕は、手を伸ばして、紙袋を受け取った。
「こんなことされても、カイトも困るよね。ごめんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「えーと、練習、しよっか?まずは、発声からね」
「はい」



「はあ」
おやすみを言ってから、寝室に引っ込むと、思わず溜め息が漏れる。
手に持っていた紙袋を、サイドテーブルに放り投げた。
ばさりと音がして、楽譜が飛びだす。

やっぱ、僕じゃ、代わりにならないよね。

明かりを消して、ベッドに潜り込んだ。
暗さに慣れない目では、部屋の輪郭さえ、つかめない。

一時的な関係だって、分かってるんだけど。

僕では、カイトの「マスター」になれない。
分かっていても、寂しさを感じてしまう。

こんなんで、一人暮らしに戻れるのかなあ。

その時のことを考えると、更に胸が締め付けられるけれど。
カイトにとっては、その方が幸せなのだと、無理矢理自分に納得させた。

カイトの方が辛いんだから。
我がまま言っちゃ、駄目だよね。

目を閉じて横になっていたら、いつの間にか、眠りについていた。



「カイト、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
何時ものように声を掛けて、家を出てから、ふと思いついた。

あー、そうか。
あの楽譜、「いつも家のことしてもらってるお礼」ってことで、渡せば良かったんだ。

それなら、カイトも納得してくれるだろう。

寝室に置きっぱなしの楽譜を思い出し、頷く。

うん、そしたら、今日の練習に使えるよね。


昨日からのもやもやが解消して、僕は、気分よく会社に向かった。



今日も、定時で仕事を終わらせると、僕は家路を急ぐ。

昨日困らせたお詫びに、今日は、いっぱい練習してあげよう。

最寄り駅のホームに降り、階段を降りようとして、僕を追いぬいて行った男性に、視線が吸い寄せられた。

・・・・・・え?

その人は、僕がカイトから聞いて、頭の中で想像していた通りの男性で。
僕は思わず、その人に近寄ると、
「あの・・・すいません。あなた、カイトのマスターさんじゃないですか?」
「え?」
戸惑った顔を正面に見て、やっぱりこの人だと、確信する。
「あ、ごめんなさい。えっと、あの、今、僕の家に、あなたのところにいた、カイトが」
僕の言葉に、男性は、突然青ざめた。
「あ・・・あの化け物を、知ってるのか?」
「え?」
「お、お前も、あの化け物の仲間なのか!?」
「え?あの、あ、待って!!」
男性が、慌てて走りだそうとするので、思わず手を伸ばした。
「触るなっ!!」
「ひゃっ!?」
手を振り払われ、バランスを崩してしまう。
「うわっ!!わっ!!」
振り回した手に、触れるものはなく。
僕は、階段の下まで、転がり落ちてしまった。



周囲の人や駅員さんに助け起こされた時には、あの男性の姿は、見えなくなっていた。

うう・・・カイトに何て言おう・・・。

せっかく会えたのに。
せっかくの機会だったのに。

もう、ばかばか大ばか!!

驚かせた上に、こんな騒ぎまで、引き起こしてしまって。
きっと、もう、僕の話を聞いてもらえないだろう。

カイト・・・ごめん。

悔やんでも悔やみきれない。
せっかくのチャンスを、自分で潰してしまった。

カイトのこと、ちゃんと話せば、分かってもらえたはずなのに。

本当に・・・迷惑ばっかり掛けて・・・。
どうして、あの時・・・一緒に行かなかったんだろう。

一緒に行っていれば、一人になることもなかったのに。
今からでも、遅くは

ああ、駄目だ駄目。それは考えないって、決めたじゃないか。

何処までも落ち込みそうな思考を、頭を振って断ち切った。
心配する周囲に、「大丈夫です」と声を掛けて、僕は、よろよろと自宅に向かう。



うー、体中が痛い。
きっと、スーツも酷いことになっているんだろうなあ。

カイトに、何て説明しようと思いながら、そろそろと玄関を開けた。
「た、ただいまー」
「お帰りなさ・・・」
カイトが、僕の姿を見て、固まっている。

そりゃそうだよねー。

スーツは埃まみれで、ぐしゃぐしゃだし。
鞄も靴も汚れて、顔も、多分、酷いことになってる。

誰がどう見ても、何かあったとしか思えない。

「・・・どうしたんですか」
カイトが、ようやく口を開いた。
「えーと、あの、駅の階段で、転んじゃって」
「何故?」
「あのー、えーと、足を、踏み外して・・・」
カイトの視線がいたたまれなくて、僕は「ごめん」と頭を下げる。

うー、言いづらい・・・けど・・・。
ちゃんと、説明しないと。

「何故・・・いえ、後でいいです。先に手当てをしましょう」
カイトはそう言うと、さっさとリビングに行ってしまった。



救急箱を持ってきたカイトに、僕は、恐る恐る声を掛ける。
「あのー、カイト」
「座ってください。消毒しますから」
有無を言わさぬ口調に、僕は、大人しくソファーに座った。
カイトが、熱いお絞りを僕の顔に当てる。

し、しみる!痛いっ!!

「い・・・痛いっ、です」
「我慢してください」
「・・・はい」

傷を拭いた後、消毒して、絆創膏を貼ってくれた。
かいがいしい手当に、何時の間に、こんな知識を身につけたのだろうと、感心する。

「理由を、教えてください」
カイトに言われて、思わず、
「は?」
「理由です。先ほど、俺に謝りましたよね?何故ですか?」
「え・・・えーと」
真っ直ぐに見つめてくる青い瞳に、気持ちが挫けそうになりながらも、僕は、一部始終を正直に話した。

・・・そりゃ、出来れば、誤魔化したいけどさ。

でも、カイトには、知る権利がある。と思う。

やっぱり、カイトのマスターは、あの人なのだから。

カイトは、無言で聞いていたけれど、僕が話し終わると、ふっと息を吐いて、
「それで、毎日遅かったのですか」
「う、うん。黙ってて、ごめん」

お・・・怒ったかな。怒ったよね。

うう・・・ご、ごめんよお。

いたたまれない気持ちで一杯になっていると、カイトがぽつりと、
「何故、そんなことを?」
「うん?」
「俺は、「探してほしい」と、頼んだ覚えはありません」

・・・はい。

僕が、勝手に先走って、台無しにしました。

「・・・ごめん。余計なことしちゃったよね。でも、あの、い、言い訳、してもいい?」
「・・・・・・・・・・」

・・・あう。

で、でも。
でも!

「あの、か、カイトを、マスターの元に帰してあげたかったの!だって、あの人は、カイトの家族でしょ!?家族は、一緒にいないと駄目なんだよ!!だから、あの、えっと」
僕は、一瞬ためらってから、思い切って言った。
「だって、カイトは、僕のこと、「マスター」って、呼べないでしょう?」

・・・言ってしまった。

きっと、カイトは、呆れてるに違いない。
何を、勘違いしているのかと。


僕は、カイトのマスターじゃないのに。
僕じゃ、カイトの家族になれないのに。

作品名:冷たい手 作家名:シャオ