ロング・グッドバイ
――少年期の終わりに顕れた、平和島とのこの短い時間を回想して、折原は思う。
あれは確かに唯一の『世界と自分とのつながり』であったし、これからもこれまでもそうなのだろう。パイプのように彼らを繋いだ役者である平和島の存在についてはあの時のように、新しく掘った穴に埋めてきつくきつく蓋をした。彼と街中ですれ違い、喧嘩を売られるたびに左腕のあたりでちりちりと疼く火花はある。しかしそれをどうにかしたいというよりは、放置することで、折原は世界との接触を楽しんでいる、と言った方が正しいのかもしれない。
彼らの関係は高校生の自分から変わっていない。あのときみたいな独白を、平和島がすることもたぶん一生ないだろう。もちろん、折原の方からも。
だけれどもし、もし万が一、ずっと後になってあの時のことを誰かに話す段が来たら、折原はきっと、自嘲的に笑んでこう言うだろう。
ゴムのように伸びきった慣性めいた風をうけ、陰鬱な笑みを、くちびるのきざはしに刻みつけながら。
「少年期との長い長いお別れに、世界がくれた贈り物だよ」、と。