ひわひわのお話。
「よし、今度みんなで海に行こう!」
『はっ?!』
オーナーが唐突にそう言い出したのは、
東京でも猛暑日が続いていた、とある夏の暑い日のことだった。
「オーナー、ホントそういうの好きですよねぇ…」
「暑い!暑いと言えば夏!夏と言えば海!そう相場が決まってる。」
「タヌも行くー!!」
「ナマモノは大人しくビーチボールにでもされてろ。」
「ふめーっ!!」
"この暑い中わざわざ人だらけの海なんて行きたくない"
とでも言いたげなamuの横で、オーナーは目を輝かせていた。
一瞬自分も行きたいと思ったけれど、行けるはずがなかった。
海に行くということは水着になるということで、
それはすなわち自分が女であるということがバレてしまうということで。
「そうと決まればメンバー集めなきゃなぁ…
この店のメンバーは全員参加だとして、
たまには関西店のみんなとも逢いたいなぁ………」
「あ、俺パス。」
『お…俺もパス!!』
「えっ?!何だよ2人ともノリが悪いなぁ…」
「俺焼けたくないし。」
『俺はよっ…用事が………』
「・・・・・・・・・」
amuに便乗して断ると、オーナーはシュンとうなだれた。
みんなで何かするのが好きな人だから、淋しかったのだろう。
申し訳ない気もしつつ、当たり障りのない理由で逃げた。
一瞬あんずさんと視線があった気がするのは、気のせいだろうか?
「・・・よしわかった。来てくれたらコーラ1箱分やろう。」
「マジで?!行く!!!」
『コーラ馬鹿………』
「あぁ?りせは、お前なんか言ったか?」
『別に?コーラ1箱程度でホイホイついてくなんて軽い男だって言ったんだよ!』
「いい度胸じゃねぇかこのひねりあげが…」
『あぁ?本当のこと言っただけだろうが』
「あーはいはい。喧嘩はそこまでにしてくださいね」
火花がバチバチと見えそうな俺とamuの間を、
あんずさんがやんわりと引き離した。
コーラ1箱程度で意見が180°変わるなんて、どうかしてる。
オーナーの誘いを一刀両断した「焼けたくない」の理由はどこへ行ったのか。
「じゃあamuはOKとして…りせは、お前いつならいいんだ?」
『え?ええ…っと………』
「できれば全員で行きたいから、
今度の休みに用事があるならお前に合わせるぞ?
いつなら暇なんだ?次の休みなら大丈夫なのか??」
『いや、えっと…その………』
全員の視線が、俺に集中していた。
思考回路をフル稼働して理由を考えるけど、さっぱり思い浮かばない。
言えない。言えるわけがない。
「女だとバレるから行けない」なんて、言えるわけがない。
用事があるなんて嘘だ。
海に行かないようにするためには、
永遠に用事があることにしないといけない。
女だということがバレてしまう以上、海へは行けない。
だけど、永遠に用事があるなんて嘘で、誤魔化せるわけもない。
『次…の休みはダメで…その次も…ちょっと用事があって……』
「何だよそれ?いつなら暇になるんだ?」
『いや、それがその…えっと………』
「あ、わかった。」
『?!』
しどろもどろになっていると、不意にamuが呟いた。
もしかしたらバレたのではないかと、一瞬背筋が凍る。
バレたら、この店にはいられない。
収入源もなくなってしまうし、
何より、この店の仲間と一緒にいられなくなるのは嫌だった。
覗き見たamuは、ニヤニヤと笑っていた。
次に紡ぎ出される言葉が怖くて、思わず目を瞑った。
「りせは…お前………」
もう、ダメだと思った。
冷や汗が顔を伝っていく。
震えそうになる手をぎゅっと握った。
「………泳げないんだろ?」
『はっ?!』
amuの口から出て来たのは予想外の言葉だった。
「プっ………」
「何だよりせは、それならそうと言ってくれれば良かったのに…」
「タヌも泳げないよー?仲間ー仲間ー!!」
オーナーの言葉には、
泳げないことに対する憐れみと、僅かな安堵感がこもっていた。
あんずさんは笑いがこらえられなかったらしく、口元を押さえていた。
素直すぎるオーナーの反応が、少し心に痛かった。
「りせは、泳げないなら浜辺で遊んでればいいじゃないか。
浮き輪で泳いでてもいいし。それなら行けるよな??」
『いや!違う!泳げる!!誰が泳げないなんて言った!!!』
「おいおい、強がんなくたって良いんだぜ?」
『強がってねぇよ!!俺はちゃんと泳げる!!!』
「泳げるって言ってもアレだろ?浮き輪がないとダメなんだろ?
りせははおこちゃまだからなー…」
『だから違うって言ってんだろ!!
俺は!!ちゃんと浮き輪なしで少なくとも25mは泳げる!!!』
「溺れてるの間違いじゃないのか?」
『違う!!ちゃんとクロールとかで泳げる!!!』
「ふーん…じゃあ実際に泳いで証明してみせろよ?」
『あぁ!やってやろうじゃねぇか!!』
「本当にか?」
『俺がカナヅチじゃないってとこ見せてやる!!』
「………決まりだな。オーナー!りせはも行くってさ。」
『ッ…!?』
ハメられた。
完全にamuにやられた。
目の前にいるNo.1は、勝ち誇った顔で笑っていた。
「よし、これで全員行けるな!」
『あっ…いやオーナー、今のは売り言葉に買い言葉であって!!』
「カナヅチじゃないとこ、見せてくれるんだろ?」
『それとこれとは別問題で…!!』
「来ない…のか?みんなで行けると思ったんだが…」
「りせは、やっぱり泳げないんじゃないのー?」
『だから…泳げないわけじゃないけど……!でも、やっぱり………』
悲しそうなオーナーの顔と、楽しそうにニヤニヤと笑うamuの顔。
交互に見て、どうして良いのかわからなくなる。
女だってことがバレたわけじゃない。
でも、問題は何も解決していない。
寧ろ状況は悪化したような気がする。
言い訳はもう出来ない。
どれだけ嘘をついても、さらにその嘘に嘘を重ねないといけない。
それこそいずれボロが出て、女だとバレてしまうだろう。
どうすれば―――…
考えていると、肩にポンと手を置かれた。
『はっ?!』
オーナーが唐突にそう言い出したのは、
東京でも猛暑日が続いていた、とある夏の暑い日のことだった。
「オーナー、ホントそういうの好きですよねぇ…」
「暑い!暑いと言えば夏!夏と言えば海!そう相場が決まってる。」
「タヌも行くー!!」
「ナマモノは大人しくビーチボールにでもされてろ。」
「ふめーっ!!」
"この暑い中わざわざ人だらけの海なんて行きたくない"
とでも言いたげなamuの横で、オーナーは目を輝かせていた。
一瞬自分も行きたいと思ったけれど、行けるはずがなかった。
海に行くということは水着になるということで、
それはすなわち自分が女であるということがバレてしまうということで。
「そうと決まればメンバー集めなきゃなぁ…
この店のメンバーは全員参加だとして、
たまには関西店のみんなとも逢いたいなぁ………」
「あ、俺パス。」
『お…俺もパス!!』
「えっ?!何だよ2人ともノリが悪いなぁ…」
「俺焼けたくないし。」
『俺はよっ…用事が………』
「・・・・・・・・・」
amuに便乗して断ると、オーナーはシュンとうなだれた。
みんなで何かするのが好きな人だから、淋しかったのだろう。
申し訳ない気もしつつ、当たり障りのない理由で逃げた。
一瞬あんずさんと視線があった気がするのは、気のせいだろうか?
「・・・よしわかった。来てくれたらコーラ1箱分やろう。」
「マジで?!行く!!!」
『コーラ馬鹿………』
「あぁ?りせは、お前なんか言ったか?」
『別に?コーラ1箱程度でホイホイついてくなんて軽い男だって言ったんだよ!』
「いい度胸じゃねぇかこのひねりあげが…」
『あぁ?本当のこと言っただけだろうが』
「あーはいはい。喧嘩はそこまでにしてくださいね」
火花がバチバチと見えそうな俺とamuの間を、
あんずさんがやんわりと引き離した。
コーラ1箱程度で意見が180°変わるなんて、どうかしてる。
オーナーの誘いを一刀両断した「焼けたくない」の理由はどこへ行ったのか。
「じゃあamuはOKとして…りせは、お前いつならいいんだ?」
『え?ええ…っと………』
「できれば全員で行きたいから、
今度の休みに用事があるならお前に合わせるぞ?
いつなら暇なんだ?次の休みなら大丈夫なのか??」
『いや、えっと…その………』
全員の視線が、俺に集中していた。
思考回路をフル稼働して理由を考えるけど、さっぱり思い浮かばない。
言えない。言えるわけがない。
「女だとバレるから行けない」なんて、言えるわけがない。
用事があるなんて嘘だ。
海に行かないようにするためには、
永遠に用事があることにしないといけない。
女だということがバレてしまう以上、海へは行けない。
だけど、永遠に用事があるなんて嘘で、誤魔化せるわけもない。
『次…の休みはダメで…その次も…ちょっと用事があって……』
「何だよそれ?いつなら暇になるんだ?」
『いや、それがその…えっと………』
「あ、わかった。」
『?!』
しどろもどろになっていると、不意にamuが呟いた。
もしかしたらバレたのではないかと、一瞬背筋が凍る。
バレたら、この店にはいられない。
収入源もなくなってしまうし、
何より、この店の仲間と一緒にいられなくなるのは嫌だった。
覗き見たamuは、ニヤニヤと笑っていた。
次に紡ぎ出される言葉が怖くて、思わず目を瞑った。
「りせは…お前………」
もう、ダメだと思った。
冷や汗が顔を伝っていく。
震えそうになる手をぎゅっと握った。
「………泳げないんだろ?」
『はっ?!』
amuの口から出て来たのは予想外の言葉だった。
「プっ………」
「何だよりせは、それならそうと言ってくれれば良かったのに…」
「タヌも泳げないよー?仲間ー仲間ー!!」
オーナーの言葉には、
泳げないことに対する憐れみと、僅かな安堵感がこもっていた。
あんずさんは笑いがこらえられなかったらしく、口元を押さえていた。
素直すぎるオーナーの反応が、少し心に痛かった。
「りせは、泳げないなら浜辺で遊んでればいいじゃないか。
浮き輪で泳いでてもいいし。それなら行けるよな??」
『いや!違う!泳げる!!誰が泳げないなんて言った!!!』
「おいおい、強がんなくたって良いんだぜ?」
『強がってねぇよ!!俺はちゃんと泳げる!!!』
「泳げるって言ってもアレだろ?浮き輪がないとダメなんだろ?
りせははおこちゃまだからなー…」
『だから違うって言ってんだろ!!
俺は!!ちゃんと浮き輪なしで少なくとも25mは泳げる!!!』
「溺れてるの間違いじゃないのか?」
『違う!!ちゃんとクロールとかで泳げる!!!』
「ふーん…じゃあ実際に泳いで証明してみせろよ?」
『あぁ!やってやろうじゃねぇか!!』
「本当にか?」
『俺がカナヅチじゃないってとこ見せてやる!!』
「………決まりだな。オーナー!りせはも行くってさ。」
『ッ…!?』
ハメられた。
完全にamuにやられた。
目の前にいるNo.1は、勝ち誇った顔で笑っていた。
「よし、これで全員行けるな!」
『あっ…いやオーナー、今のは売り言葉に買い言葉であって!!』
「カナヅチじゃないとこ、見せてくれるんだろ?」
『それとこれとは別問題で…!!』
「来ない…のか?みんなで行けると思ったんだが…」
「りせは、やっぱり泳げないんじゃないのー?」
『だから…泳げないわけじゃないけど……!でも、やっぱり………』
悲しそうなオーナーの顔と、楽しそうにニヤニヤと笑うamuの顔。
交互に見て、どうして良いのかわからなくなる。
女だってことがバレたわけじゃない。
でも、問題は何も解決していない。
寧ろ状況は悪化したような気がする。
言い訳はもう出来ない。
どれだけ嘘をついても、さらにその嘘に嘘を重ねないといけない。
それこそいずれボロが出て、女だとバレてしまうだろう。
どうすれば―――…
考えていると、肩にポンと手を置かれた。