ひわひわのお話。
「りせはは行きますよ、オーナー。」
『あんずさん?!』
「本当か!?」
「へーぇ…」
3人の声が重なった。
思わず振り返った先のあんずさんは、いつもの営業スマイルを振りまいていた。
あんずさんは、俺が女だということを知っているはずなのに。
「オーナーのために内緒にする」と言ってくれた、
あの言葉は嘘だったんだろうか?
それとも、この場だけでも話を合わせておけということなんだろうか?
わからない。
あんずさんの真意が、掴めない。
何を言って良いのかわからなくて、
口を開いたものの何も言えなくなった。
そんな俺の様子を見て、あんずさんは小さく笑った。
「関東店は全員参加ってことで、オーナーは関西店に連絡して下さい。
日付を合わせて、また詳細の打ち合わせをしましょう。
とりあえず、今日は解散ってことで。」
「あぁ、わかった。【蓮】さんに連絡を取ってみるよ。」
「りせは…逃げんなよ?」
『わっ…わかってる!!そっちこそ逃げんなよ!!』
「俺はお前みたいなビビリじゃないから逃げねぇよ。」
『何だって?!お、俺だってなぁ―――…!!』
「はいはい喧嘩はダメですよ。ほら、帰った帰った。」
「2人とも喧嘩するほど仲が良いよなぁ…オーナーとして嬉しい限りだ。」
『「良くない!!」』
「ほら、息ぴったりだし。」
「マネすんなよこのチビ!」
『うっさいこのコーラ野郎!』
「あーもう…ほら、早く帰ってくれないと私の仕事も終わらないじゃないですか。
はい、帰った帰った!!」
「はぁーい。じゃ、おっつかれさまでーす!」
あんずさんの合図で、みんなバラバラに散らばって行った。
俺はそのまま帰れるわけもなく、その場に残っていた。
amuの追求からは逃げたけど、窮地には変わりない。
『あんずさんっ…あのっ…!!!』
「はいりせははちょっとこっち。」
『わっ……!』
あんずさんに連れてこられたのは倉庫の片隅。
ここなら、話を聞かれることもないし、
入って来られてもすぐわかるから恐らく盗み聞きされる心配はない。
『あのっ…!』
「"どうしてあんなこと言ったのか"…でしょう?」
『……はい』
「りせはを辞めさせるため…って言ったら、どうします?」
『そうやって言うってことは、違うんですよね?』
「まぁ、オーナーのためですからね。しませんよ。」
『じゃあ…どうして………』
「オーナーの悲しい顔は、見たくありませんから。」
『俺が女だとバレないようにしつつ、海に行かせる。
そういう策があるってことですか…?そういうことですよね?』
「少しは、頭を使うようになったみたいですね。」
『教えてください!このままじゃ…このままじゃ、俺………』
あんずさんは、不敵に笑った。
そして、俺に小さく耳打ちをした。