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ヒーローの条件

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悪の組織に生み出された仮面ライダーは呪われた自分という存在の生みの親である組織を倒すために戦う。
俺にふりかかる火の粉を払っているだけだ、というスタンスでね。超シビれるよね。シズちゃんみたい。

「小規模なものとはいえヤクザの抗争の真ん中に投げ込むなんて焼却炉にぶち込むようなもんじゃないの?」
「シズちゃんにとっては火の粉だよ」

それもそうだと思ったのかもしれないがそれ以上に上司のプライベートには干渉しない主義の矢霧波江は小さく肩をすくめただけだった。
彼女が過干渉になるのは実弟に関することのみである。自分専用のコップだけにコーヒーを淹れている有能な部下の後ろ姿から目を離して俺は先程自分で破壊したヒーロー達の残骸を拾い上げる。
ナイフで切り刻まれ踏みつけられ四肢を激しく損壊させられた末にただの屑となり果てたもともとヒーロー物のフィギュアであったそれらと、その傍にしゃがみ込んだ俺を無表情に見下ろして波江が言った。
「それ聖辺ルリ監修のプレミア物だとか言ってなかった?」
「まあね。でも、飽きちゃったし」
俺は振り返らず答える。いまはこの指先に愛を込めるのに忙しい。手渡された小さなゴミ袋にプラスティックの破片を収納しながら俺は彼女に語る。
「彼らヒーローは世のため人のためという大義名分を背負いつつも実は自分の憎む相手への復讐のために動いているんだ、一般人達は安全のために彼を利用し、彼は自分の心の平穏のために一般人を利用しているという図式がそこには成立している。なんて愛すべき人間らしさだろう。シズちゃんとはそこが決定的に違うよね」
「あら。言われてみればそうね、平和島静雄ってまるで正義の味方じゃないの」
はじめて気付いたといった口調で波江が言ったのを俺は好ましく思いながら、それを否定する。
シズちゃんみたいな弱い心でヒーローになんてなれないよ。だってあいつは誰かのために動いてる気なんてはじめからさらさらないからね。
だから、ねえ。
ねえシズちゃん、
俺に利用されてよ。
俺のために戦ってよ。
俺のヒーローになってよ。
この先の人生で天地がひっくり返っても絶対に口にすることのないそしてこの世の終わりが来ても叶うことのない願いを心に呟いて、今日も俺は折原臨也として彼にとって唯一最大の悪役を演じる。
作品名:ヒーローの条件 作家名:463