ヒーローの条件
工事現場で重機が立てるような騒音が遠くからこの部屋の空気をかすかに震わせた。徐徐にしかし確実に近付いてくるそれを認め優秀な部下の波江はあからさまに嫌な顔を上司である俺に向けて言った。
「外でやってよね」
「悪の組織の幹部はボス戦の前に敵と前哨戦を繰り広げるのがお約束だよ?」
「あなたの幼稚なプライベートに社員である私と職場であるこの部屋を巻き込まないで頂戴」
「ふふ、わかってるさ。言ってみただけ。君ってほんとノリが悪いよねえ」
俺は立ち上がり、だんだん近づいてくる外の物騒な気配に耳をすませ、宿敵の生み出し続ける愛すべき破壊音がドアの前まで辿り着くのを待った。