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それらすべて、かけがえのない日々(2)

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「――ということがあったんですよ」
『それで旅行店の前に居たんだな』
「はい。でも、店先でわいわいしちゃって迷惑だったかも」

 正臣ったら話聞いてくれなくて。
 徐々に遅くなる日没を迎え刻々と空が藍色のベールに包まれる時間、鬱蒼とはいかないまでもそれなりに木立の密集する公園内。噴水を囲むように設置されたベンチに腰掛けながら隣の人物へ話す帝人の姿があった。
 一度帰宅し着替えた後で、冷蔵庫にほぼ何も入っていない状態なのを思い出した帝人は夕飯の買い出しにでもと外出した。何にしようか考えながらふらふら歩いていたところで最近知り合った人物に出会った帝人は思わず彼女に声をかけていたのだ。
 帝人の隣に座る人物は黒いライダースーツを身に纏い、頭にはネコを模したヘルメットをかぶっている。ただし、先ほどから声をかける帝人に対して、彼女の方はPDAに会話を打ち込んでいた。

『それにしても、なんだかいいな。そういうの』
「何がですか?」
『あっ、いや、羨ましいとかそういうわけじゃないんだけど』
「?」
『その、ウェディングドレスってアレだろ? 結婚する時に女性が着るっていう…』
「ああ、はい。そうですね。一般的にはドレスを着るのと、白無垢っていう真っ白な着物を着る場合があるみたいですけど」
『着物もあるのか…!』

 驚いたように高速タイピングで会話を続けるセルティに、帝人はふと思いついたことを口にした。

「もしかして、セルティさんもドレス派ですか?」
『は!?』
「あっ、その、今日正臣と二人でドレスが良いか白無垢が良いかみたいな話になって」

 それでですね、別に僕はどっちというわけでもないんですけど…! と口早に焦る帝人を見ながら、セルティは考える。
――ドレスか、白無垢か。
――新羅なら、どちらが好きだろうか…?
(って、えええええええ!!? い、今何を考えた私!?)

「セルティさん?」

 急に頭をぶんぶんと左右に振り出したセルティに、帝人がびくっと肩を跳ね上げる。

『いやっ、何でもない! 何でもないから!!』
「そうですか…?」

 何となく聞かれたくないのだろう気配を察した帝人はそれ以上の追究を止めた。勿論、セルティの気持ちを汲んでのこともあるが、自分の身体が空腹を訴え始めたことも理由の一つだ。

「それじゃあ僕はこれで」
『ああ。杏里ちゃんにもよろしく伝えてくれ』

 はい、と頷いた帝人が「そうだ」と呟く。続けて、

「セルティさんて、ドレス似合いそうですよね」

 新羅さんも好きそうですけど、と話を括るとネオンが眩しい通りへ向かい歩き始めた。

『え?』

 後に残されたセルティは一瞬の思考停止の後。

 ――ええええええええええええええ!!??

 声にならない叫び声を上げることになる。