触れる魔法
「クラウド。顔を上げろ」
「……」
「クラウド」
これ以上困らせるわけにはいかないと思った俺は、恐る恐る顔を上げた。
セフィロスさんと目があって、俺は息が詰まる。
「とっくに魔法にかかってるんだぞ、俺は」
そう言って俺の頭を撫でてきたセフィロスさんの手は大きくて、暖かくて、ほっとするような感じで、心地よかった。
それでも、俺のドキドキはおさまらないままなんだけど。
「これのおかげできっと魔法は解けないだろうな」
セフィロスさんは自分の頬を軽く指先でつついた。
「で、でも、俺に、そんな……効力は……ないと……思います……」
セフィロスさんが俺のことを好きでいてくれるようなそんな都合のいいこと、願っても叶うわけないし、そもそも願うのが間違いだよな、と徐々に思い始めてる。
「俺はクラウドの魔法の効力は絶大だと思ってるんだが?」
「え?」
「俺はクラウドを見てから今まで魔法が切れてないんだぞ。切れるどころか、魔法の効力が強まっていて、今じゃどうしようもないぐらいだというのに」
「……ご、ご冗談を……!」
俺は右手を顔の前でぶんぶんと振った。
確かに俺の存在が人に魔法をかけてしまうとか、それらしいことをセフィロスさんは言ってたけど、セフィロスさんがそんな魔法にかかってるなんて、俺には信じがたい。
そんなことを考えてしまった俺は、きっと怪訝な顔をしていたのだろう。
「何なら証明してやろうか?」
セフィロスさんは口元に笑みを浮かべて、俺の頬に触れてきた。
「し、証明……!?」
大きく身体をこわばらせた俺を見て、セフィロスさんは低い笑い声を漏らす。
「ま、それは出張から戻ってきてからだな。一週間後を楽しみにしていよう」
セフィロスさんは俺の頭をくしゃくしゃっとしてから、俺に背を向けた。
出張、いってらっしゃいとか、お気をつけてとか、色々言いたいことがあったのに、何も言えてないよ……。
セフィロスさん、と声をかけようとしたときだった。
足を止めたセフィロスさんは言い忘れていた、と俺の方に振り返った。
「はい?」
「好きだ」
…………!
こ、この人、俺の思考回路だけじゃなくて、何もかもを破壊する気ですか!
心臓止まるかと思ったよ、もう!
「クラウドは?」
質問の意図が読み取れずに、じっとセフィロスさんの顔を見ている俺に、再度質問が投げられる。
「クラウドは、俺のことをどう思っている?」
もちろん、決まってる。
俺だって解けない魔法をかけられてしまって、もう、逃げられない。
そんな思いを全部言葉に出来るほど冷静じゃなかったから、たった一言だけしか言えなかった。
「……好き……です……」