触れる魔法
「まさか、クラウドに誘われるとはな。そうだな、俺のものにしておけばよかったな。クラウドがそんな気持ちでいたんだったら」
「…い、いや、あ、あの…、えっと……」
自分の発言を頭の中で思い返して、さらに恥ずかしくなる。ドラムロールのように早くなる鼓動の音はセフィロスさんに伝わってるだろう。
「クラウド、ちょっと目を閉じてろ」
「…あ、え? は、はい……」
言われるままに、目を閉じる。
その直後に、唇にやわらかい感覚が触れた。
それは一瞬で、驚いて開いた俺の目には、セフィロスさんの碧い瞳が飛び込んできた。
「セ、セ、セ……」
うわ、名前さえ呼べない……!
「クラウドの『大丈夫』という言葉を信じて、今日は唇だけもらっておく。後は、出張から帰ってきて、だな」
唇だけ…もらっておく……?
ちょ、ちょ、ちょっと、俺、今……。
俺、セフィロスさんにキス……された……?
えーーーーっ!
俺、いきなり夢見てるのかもしれない。でないと、セフィロスさんが俺に、俺に……。
「……じゃあな、クラウド。一週間、留守を頼むぞ」
俺に向かって軽く笑うと、セフィロスさんはすっと立ち上がった。
「えっと、あの、セフィロスさん!」
思わず呼び止めてしまったけど、何聞くつもりだ、俺。
「何だ?」
夢ですか、とか聞いたらバカだよな……。
うわー、どうしよう。
俺は必死に頭を振って考えてみたが、ショートした機械みたいに、脳が働かない。思考回路を一瞬で壊滅させられるなんて、もう、魔法以外の何者でもないよ。
魔法……?
そうだ、魔法だ!
俺はすぐさま立ち上がると、セフィロスさんの腕にしがみついた。
「クラウド!?」
セフィロスさんは驚いたようで、どうした、何かあったのか?と俺に問いかけてくる。
俺はごくりとつばを飲み込むと、大きく背伸びをした。
そして、セフィロスさんの頬に唇で触れる。本当にかすった程度ぐらいだけど、それは今の俺に出来る精一杯のことだった。
「……クラウド……?」
「あ、あの、俺、セフィロスさんの魔法にかけられてますけど、セフィロスさんに俺の魔法かかってなかったら、あの、その……」
何が言いたいのかわからなくなってきた。
言葉が続けられなくて、余計に恥ずかしくなってしまった俺は、うつむいて唇をかみ締めるしかなかった。
「クラウド…」
頭の上から降ってくる優しい柔らかな声にも反応できずに、俺は肩をすくめて固まるしかできない。
もう、俺、何やってんだろう、セフィロスさん、明日から出張で大変なのに。
俺のバカ!