気にもとめない
その日、池袋最大のカラーギャングの創始者はひどくご機嫌だった。
それこそスキップでもしそうな足取り、ふんふふーんと漏れる鼻歌、ゆるんでいる頬。
これがどこぞの情報屋だったならば四方八方からうざいと言われそうだったが、そこは健全な男子高校生なうえに、年の割に幼い容貌をしているため、ご機嫌な姿はただ可愛らしいだけだった。
そんなご機嫌なクラスメイトの姿に、園原杏里はとても穏やかな気持ちだった。
いつものように「愛している愛してる」と罪歌は脳内で囁いていたけれど、それもまたいつものように感情の向こう側へ放り捨てて、帝人の姿をにこやかに見つめていた。
「なんだか楽しそうですね、竜ヶ峰君」
「あ!園原さん。えへへ・・・わかる?」
こてんと首を傾げて照れた笑みを浮かべる帝人に、さらに杏里は笑みを深めた。
ふふふと笑いあう2人にクラスメイトも思わずほのぼのしてしまう。
「今日ね、静雄さんと放課後デートなんだ」
帝人はそう言うと頬を赤らめて指をからませた。
どう見ても乙女のポーズだったが、杏里は細かいことは気にしない。というか、男子の友達なんていなかったため男の振る舞いというもの自体をそれほど理解していない。
(張間さんがよくあんなポーズしてた・・・幸せそう)
ぐらいにしか思っていない。
帝人にとって幸いなのは、容姿のおかげでその乙女チックな仕草も違和感を他人に与えないところであろうか。
「竜ヶ峰君が幸せそうで、良かったです」
「園原さん・・・ありがとう」
そこでガララと教室のドアが開いた。
ひょいと顔をのぞかせた教師が帝人と杏里の姿を認めて声を上げる。
「竜ヶ峰!突然で悪いが、放課後に委員会を開くことになったからな。園原も。生徒会室に集まれ」
ピシリと空気が凍る。
ほわほわとしていた帝人の笑みが急速に無表情へ移り変わった。
ギギギ・・・とマリオネットの首を動かすかのような動作でドアへ振り向くと
「・・・は?」
何言ってんのこのおっさん、ぐらいあとに続いてもいい口調だった。
教師もまさかそんな返しを、いつも優等生で穏やかな帝人からされるとは予想もせず固まった。
「先生に向かってなんだその口のきき方は」すら言えない威圧感があった。
そこで進み出たのはやはりというか杏里だった。
「先生」
「お、あぁ園原。えっと放課後・・・」
「すみません」
ズバッと斬った。
「そ、園原さあぁぁぁんっ!!!」
我に返って叫ぶ帝人に、杏里は良い笑顔を返した。
「安心してください竜ヶ峰君。これで今日は委員会は開かせません」
「あ・・っ、ありがとう園原さん!」
そっと目尻の涙を拭う仕草を見せる帝人も、杏里の名前を呼んだのは(さすがに教師斬るのはまずいよ!)という気持ちからであり、別に斬ることを止めたわけでもない。
そのことをわかっている杏里も、ヒロインを助け出したヒーローの如くさわやかな笑みを見せて罪歌を戻した。
赤い虹彩を放つ目の教師はふらふらと「委員会中止ー」と言いながら去って行く。
またふふふーと笑いあう2人の姿を目に入れないように、クラスメイト達はそっと俯いた。
いつの時代も、来良の生徒は自己保身に優れている。
それこそスキップでもしそうな足取り、ふんふふーんと漏れる鼻歌、ゆるんでいる頬。
これがどこぞの情報屋だったならば四方八方からうざいと言われそうだったが、そこは健全な男子高校生なうえに、年の割に幼い容貌をしているため、ご機嫌な姿はただ可愛らしいだけだった。
そんなご機嫌なクラスメイトの姿に、園原杏里はとても穏やかな気持ちだった。
いつものように「愛している愛してる」と罪歌は脳内で囁いていたけれど、それもまたいつものように感情の向こう側へ放り捨てて、帝人の姿をにこやかに見つめていた。
「なんだか楽しそうですね、竜ヶ峰君」
「あ!園原さん。えへへ・・・わかる?」
こてんと首を傾げて照れた笑みを浮かべる帝人に、さらに杏里は笑みを深めた。
ふふふと笑いあう2人にクラスメイトも思わずほのぼのしてしまう。
「今日ね、静雄さんと放課後デートなんだ」
帝人はそう言うと頬を赤らめて指をからませた。
どう見ても乙女のポーズだったが、杏里は細かいことは気にしない。というか、男子の友達なんていなかったため男の振る舞いというもの自体をそれほど理解していない。
(張間さんがよくあんなポーズしてた・・・幸せそう)
ぐらいにしか思っていない。
帝人にとって幸いなのは、容姿のおかげでその乙女チックな仕草も違和感を他人に与えないところであろうか。
「竜ヶ峰君が幸せそうで、良かったです」
「園原さん・・・ありがとう」
そこでガララと教室のドアが開いた。
ひょいと顔をのぞかせた教師が帝人と杏里の姿を認めて声を上げる。
「竜ヶ峰!突然で悪いが、放課後に委員会を開くことになったからな。園原も。生徒会室に集まれ」
ピシリと空気が凍る。
ほわほわとしていた帝人の笑みが急速に無表情へ移り変わった。
ギギギ・・・とマリオネットの首を動かすかのような動作でドアへ振り向くと
「・・・は?」
何言ってんのこのおっさん、ぐらいあとに続いてもいい口調だった。
教師もまさかそんな返しを、いつも優等生で穏やかな帝人からされるとは予想もせず固まった。
「先生に向かってなんだその口のきき方は」すら言えない威圧感があった。
そこで進み出たのはやはりというか杏里だった。
「先生」
「お、あぁ園原。えっと放課後・・・」
「すみません」
ズバッと斬った。
「そ、園原さあぁぁぁんっ!!!」
我に返って叫ぶ帝人に、杏里は良い笑顔を返した。
「安心してください竜ヶ峰君。これで今日は委員会は開かせません」
「あ・・っ、ありがとう園原さん!」
そっと目尻の涙を拭う仕草を見せる帝人も、杏里の名前を呼んだのは(さすがに教師斬るのはまずいよ!)という気持ちからであり、別に斬ることを止めたわけでもない。
そのことをわかっている杏里も、ヒロインを助け出したヒーローの如くさわやかな笑みを見せて罪歌を戻した。
赤い虹彩を放つ目の教師はふらふらと「委員会中止ー」と言いながら去って行く。
またふふふーと笑いあう2人の姿を目に入れないように、クラスメイト達はそっと俯いた。
いつの時代も、来良の生徒は自己保身に優れている。