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気にもとめない

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足取りも軽く部活へ急ぐ生徒たちの声を背中に、帝人は靴箱から靴を取り出した。
肩に斜めがけにした鞄の紐を握って、先に靴を履き替えて待っていた杏里の元へ小走りに近づく。

「ごめん、お待たせ」
「いえ。では帰りましょう」
「うん」

横に並んで歩くいつもの帰り道。
校門をくぐったところで、背後から帝人を呼ぶ少年の声が響いた。

「帝人先輩!僕も一緒に帰っていいですか?いいですよね?」

にこにこと笑う後輩、青葉だった。
一見無邪気にも見える姿だが、その中にあるドロドロした部分を帝人は知っている。
杏里はよく知っているわけではないが、何かあれば斬るという決意はいつ何時ともブレることはない。
帝人は特に警戒するでもなく、今日一日ずっと浮かべていた幸せそうな笑みのままで

「うん。途中までならいいよ」
「えー家までお供したいんですけど」
「今日は竜ヶ峰君はデートだから、駄目です」

杏里の冷たい声が青葉の笑顔をばっさりとそぎ落とした。
慌てることもなく帝人はふふふと楽しそうに声を上げる。

「デート、って・・・平和島静雄ですか?」
「うん!」

ねー、と2人で同じ方向に首をかしげて笑う帝人と杏里の姿に、青葉は苦虫を噛みしめたようなしかめっ面になる。
どう見てもデコボコな2人が付き合っていることは知っているが、それならそれでダラーズに引き込めばいいのにと思うのだ。
それで青葉の盤上を引っ掻きまわれても困るけれど、あの池袋最強を利用するというのも面白い。

(でも何回言ってもそんなつもりないって言われるだけだし・・・)

ちなみにそう進言するたびに帝人が面倒くさいなぁと思ってることも知っている。
が、恋におぼれた男を利用するなんて、帝人には簡単なことじゃないのかと青葉は企んでしまうのだ。

「青葉君」

(まぁ、帝人先輩ごと利用できればそれはそれでいいんだし・・・)という思考でぼんやりした青葉に、帝人の優しい声がかけられる。

「青葉君」
「え、あ、はい!なんですか先輩?」

慌てて顔を上げた青葉の目に映る帝人は、天使もかくやというほどの明るい笑みのまま

「僕と静雄さんの邪魔したら、今度は目を抉っちゃうぞっ」

確実に語尾に☆がついていた。
青葉は一瞬のフリーズの後、

「・・・はいっ、ごめんなさい!」

潔く謝った。
隣で杏里がうんうんと頷いていたのが、やたらと帝人の言葉の信憑性を高めていた。



杏里と青葉をお供のように引き連れた帝人が待ち合わせ場所にたどり着いた時、静雄はまだ到着していなかった。
シャッと携帯をスライドさせて時間を確認する。

「ちょうど10分前・・・うん、良い時間」

ひとつ頷く帝人を確認して、杏里は

「それでは私たちはここで」
「先輩、また明日!」

穏やかな足取りで一礼をして去っていく杏里と、少々引きつった笑みで手を振る青葉がその場を後にする。
それにばいばーいと手を振り返して帝人は備え付けのベンチに座った。
傍目的にはポチポチと、だが実際は高速のスピードで携帯のボタンを押して静雄にメールを送る。

作品名:気にもとめない 作家名:ジグ