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シオンが風邪を引いた

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下賤な犬の血。
虐げられた子供時代。
喪った最愛の母。
父への憎しみ。
誰一人救えなかった学生時代。
大事なものを失いかけている、現在。
シオンは天井に伸ばしている己の手をぼんやり見つめている事に気づく。
しれず涙が伝う。
真夜中、目が覚めた時の事だった。

シオンが風邪を引いた。
その噂は城内をかけ巡り、シオンの部下たちを騒がせた。
「よーシオン。大丈夫かぁ?」
「クラウ」
シオンは自室の高級ベッドに横たわりながら部下を迎えた。
「風邪菌に負けるとは情けない。俺は一度も風邪を引いた事はないぜ!」
「先輩は風邪引いても気づかないだけなんじゃないですか・・・ていてて!先輩痛い痛い!」
クラウと共にカルネもシオンを見舞いに来た。クラウは手ぶらだが、カルネは果物を持っている。
「でもシオンさん、気をつけてくださいね。風邪は万病の元ですから」
「ありがとう、カルネ」
カルネから果物を受け取り、シオンはほほえむ。大事な友人たちがこうして見舞いに来てくれて、なんだかとても嬉しかった。
「きっと疲れが溜まっていたんですよ。1ヶ月まともに寝てないでしょう?それでよく今まで倒れなかったものですよ」
「げぇ。そんなに働いてたのかよ。お前ってホント仕事だけの男だよな」
「失礼でしょ先輩。なんか意味違うし」
二人の掛け合いもなんだか久しぶりだ。忙しすぎて全然人と会話する時間もなかった。ようやく山場がすぎてほっとしたら風邪を引いて倒れてしまった。クラウがいう様に根っからの仕事人間のシオンは、仕事が片づいてから倒れてよかったと密かにほっとしている所だ。
「まぁ、ゆっくり休め。俺たちでなんとかするから!」
どん!と鋼の肉体を叩いてクラウが男らしい笑みを浮かべる。
「面倒くさい事は人に押しつけてるくせに、よく言いますよ・・・」
ぼそっと抗議するカルネに苦笑して、シオンは二人の掛け合い漫才をしばらく見ていた。

あんな夢を見た後だから、人恋しかった。
母を友を喪う夢。

「シオンさん、ホント、自分の体は大事にしてくださいね」
カルネが心配そうにいう。可愛らしい童顔をこちらに向けて、寝そべったままのシオンを見下ろす。
「風邪だと思って油断しちゃダメですからね!」
「あぁ、わかったよカルネ」
なんとなくカルネの頭をなでる。同い年くらいの男にする動作ではないが、なんとなく気分だった。
「うわ、シオンさん手あつ!熱結構あるじゃないですか!」
さらに気を揉ませてしまう結果となってしまった。
「そう・・・かな?」
自分の額に手をあてる。確かに熱いかもしれない。
「ほんっと、大人しくしてろよ。病人はそっとしてないとな。じゃ、俺たち戻るから」
クラウがカルネを引っ張って出ていく。扉がバタンと閉まると、シオンはまた一人になった。
「・・・」
騒がしい人間がいなくなって静かになると、なんだか心寂しいものだ。
さて寝ようかと目を閉じる。

ふと目をあけると、天井に張り付く少女と目があった。
不意打ちをつかれ心臓がドキリと脈打つ。しかし彼女が誰なのかすぐにわかり、シオンは微笑みを浮かべた。爽やかだが、熱に浮かされて少しぼんやりしていた。
「やぁ・・・イリスちゃん。どうしたのかな?」
「兄様が、シオンお兄ちゃんが風邪引いたから見舞ってあげなさいって!」
イリスの言葉にシオンは大いに驚く。まさかルシルがそんな気遣いをするなんて思えなくて、彼の真意を探ろうと頭を動かす。
しかしぼんやりする頭では何も考えられず、シオンは早々に思考を停止させた。
「そうか〜。ありがとうイリスちゃん」
「えへへ」
イリスは照れくさそうに笑うと、シオンのベッドに移動した。いつもながら可憐な動作でシオンは感嘆した。
イリスは冷たいタオルをシオンの額に置く。今までのタオルはもう生ぬるかった。
「偉い子だね、イリスちゃん」
「早くよくなってね!」
「ありがとう。もうお帰り。イリスちゃんに風邪が移ったら大変だから」
「大丈夫!イリス風邪引いたことない!」
天真爛漫なイリスに心癒され、シオンはほのぼのと笑う。
(やっぱり子供はいいなぁ・・・)
仕事熱心な部下が聞いたらならばさっさと世継ぎをと言われそうな事を思う。
「もっとお話したいけど・・・イリス帰る!兄様がすぐに帰って来なさいって言ってたから!」
「あぁ、バイバイ」
そういって、イリスは帰っていった。
シオンはまた目を閉じる。

いつのまにか夜になっていたようだ。
熱も大分下がった気がする。
上半身を起こす。クラウたちにもらった果物をまだ食べていなかった。そろそろ腹も空いてきたし、丁度良いから食べようかと思って机に手を伸ばす。
と、控えめな音のノックが聞こえた。
「誰だ」
「・・・ミラン・フロワードでございます、陛下」
「入れ」
こんな時間になんだろうかといぶかしぶ。今日一日仕事ができなかったから、何か文句を言われるだろうか。それとも、シオンが倒れている間に何か大きな動きがあったのだろうか。
「どうした?」
つい顔が険しくなる。フロワードは軽く礼をすると、少し困ったような顔をする。シオンはますます不思議に思った。
歯切れ悪く、フロワードが言う。
「いえ・・・特に火急の知らせがあるのではありません・・・その、陛下がご体調を崩されたと聞き、ご様子は如何かと伺いに参ったのでございます・・・お休みかと思っておりましたが、起きておられたのですね」
フロワードの言葉に破顔する。フロワードはシオンを心配して見舞いに来てくれたようだ。彼の言葉を聞くと、どうも寝ている間に様子を伺うつもりだったらしい。なかなか可愛げがあるではないか。昼間に堂々とくればいいものを。
シオンは微笑み、部下に座るよう指示する。フロワードがベッドの近くに椅子を移動させそれに座ったのを見てから、シオンは言った。
「今日一日寝ていたから大分良くなった。明日からはまた働けそうだよ」
「病み上がりなのですからご自愛ください。仕事のことについては心配なさらず。元帥閣下もカイウェル少将が陛下のご負担を減らそうと動いて下さいましたから」
それを聞いて改めて二人に対する感謝の念が沸き上がる。自分はいい友人・部下に恵まれたなぁとしみじみ思う。
「悪いな、ありがとう」
照れた様にシオンが言うと、フロワードが少し驚いて目を丸くした。なんとなくその表情が面白くて、シオンはくすりと笑う。笑って、枕元の側に置いてある果物駕籠に手を伸ばす。クラウたちがもってきてくれた果物を掴むと、フロワードに渡した。
「一緒に食べないか?クラウ達から貰ったんだが、一人じゃ食べきれないし、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいからな」
渡された果物とシオンを見比べて、フロワードは小さく頷く。
シオンも林檎を取りそのままかぶりつく。からからの口の中に林檎の水分と甘みが入ってきて、思わずがっつく。対してフロワードは蜜柑の皮を丁寧に剥がしながら食べていて、性格が出ているのかなと思った。
二人で食べた果物は、とても美味しかった。


翌日、すっかり回復したシオンはいつもの様に働く。
クラウとカルネ、特にクラウは何故かとても消耗した様子で、それを見たシオンは嬉しそうに笑う。
「ご苦労だったな、クラウ。カルネもお疲れさま」
作品名:シオンが風邪を引いた 作家名:ハクヨウ