続・罪深き緑の夏
雨の匂いは嫌いだ。夏の雨は腐臭を含んだ戦場の匂いを思い起こさせる。冬の雨は雪に変わり、体温を奪い、世界が凍てつきこおり果て静まりかえる恐怖が背筋を這い登る。
リヒテンシュタインを拾ってから、そんな風に昔を想起することは減っていった。共に暮らし始めた頃、雨が降るたびにどこか不安げに気もそぞろになる少女を気づかい、そのことに意識をとられ、自分のことどころではなくなっていったのだ。
常に側にいられるわけではない。それでも、邸内にいる時に雨が降れば、なにかと理由をつけては顔を合わせるようにした。出かける時にはなるべく早く邸へ戻るように努めた。
今夜も雨が降っている。
だがあの優しい気配は、いまはここにない。