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【捏造】 真選組!

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背丈はミツバより随分大きい。土方ほどには無いが五尺七寸、と随分大柄。小柄な男ほどの上背が或る。だが、髪の色もそうだが雰囲気というか、柔らかそうに笑う。歳は土方と同い年であるからミツバよりも少々上だ。
「おっかねェけどよ」
女と分かってしまった以上、道場での手合わせに加減が要るとかそう言うレベルの話ではない。藤堂は何度か文句の付けようも無いほどの大敗を貰っているし、そう言う原田も山南とやって勝ちもあれば負けもある。実力は伯仲で、この事実を知って二度と負けられないと思うばかりである。
「ところで総悟と山南さんは」
噂になって居る人物の姿が見えぬ。今日はまた随分と暑い。滝のような汗を掻きながら馬鹿話をしているのも厭になる。
「駄菓子屋のばばあんところへアイス買いに行った」
オレ白くま頼めばよかったなァと、藤堂が言った。





「師範代、駄菓子屋というのはまだですか」

じりじりと暑い野の道を歩きながら山南が問うた。連日の余りの暑さに耐えかね、冷たいものでも買ってきてやってくれと近藤さんに頼まれた。小銭を渡されアイスクリームを買いに出たのが日もまだまだ高い昼日中。荷物持ちにお供しましょうとついてきたのは山南である。先日の一件以来、どうにも調子が狂い勝ちだが、邪険にするほどではないかとも思っている。
「その師範代って言うのやめろよ」
お気に召しませんか、山南は買い物籠をぶら下げながら尋ねた。総悟は相変わらず丁寧な口を利く山南のことをどう扱っていいのか分からない。外から来た人間、近藤さんに近づく人間、おんなのひと、師範代と唯一呼ぶひと、姉と仲のいいひと。気に入らない筈なのに、いつものような口が利けない。
「お気に召すって言うか、なんかへんだろ」
歳は多分あのヤローと近い筈。だから十は離れている。けれども口調を崩すわけでもなく、相も変わらず馬鹿がつくほど丁寧だ。じゃぁなんて呼んだら、困ったように山南は尋ねる。
近藤さんや源さんは子供の頃から知っているから総悟と呼ぶ。皆もそれに倣ったように総悟と呼ぶ。数年前までは誰だと思ってらぁと掴み掛かりに言ったが、最近ではむかつくけれどももう一々正さない。
「総悟でいいよ」
ほんとに、弾んだような声がした。総悟が後ろを振り返ると、謳うように歩く山南が見えた。陽炎の立つような野の道を軽やかに愉快そうに歩く。
「私、近藤さんや土方さんが総悟って呼ぶの、少し羨ましくって」
駆け寄るようにすぐ後ろに迫りながら、うれしいなと幼く言った。十も上のひとを、子供じゃぁねぇんだからという言葉を飲み込めたのは、少しオレが大人になった証拠なのか。
総悟は見上げた山南の顔から目をそらして前を向く。かすかに笑う。おかしなひとだ。
「あんた変な人だよな」

今時、剣術を習っている。
今時、武者修行に出る。
おんなのひとが剣を振るう。
十も歳の違う子供に敬語を使う。
このくそ暑いのに荷物もちだとついてくる。

山南さんは、ちょっとおどろいた顔をしたあと、うーんと考え、いいえ土方さんほどじゃないですよと隣に並んだ。
「私、煮魚にマヨネーズかけないですもん」
そう笑った。
なるほどな。

「じゃぁ、行きましょうか師範代。アイス買占めに」
「おう、駄菓子屋のババァ騙すコツ教えてやるよ」


 *

「気が付いてないの、二人だけだったんでしょう」
山南は宇治金時を食べながら原田と藤堂を笑う。他みんな気がついてんだぜ、教えてくれよ、と原田は言い、藤堂は騙されたっスと頷いた。当の山南は、見たら分かると思ってってさぁとくつくつと小さく笑った。
「センサー壊れてるんじゃないの」
原田と藤堂は同時に噴出す。山南は二人の壊れたセンサーのあるべき位置を一瞥して、ねェと事も無げに言い切った。何処見てやがると原田は思わず身を縮めて山南から身を避けたが、山南は更にセンサーを覗きこもうとした。
「猫被ってるてめぇに言われたくねぇんだよ、山南!平隊士の前と俺らの前じゃ態度変えすぎなんだよ」
「当たり前、幹部だよ我々は。品行方正なのは当然、仕事の一貫」
原田は思いの外初心なのか、強面の頬を赤くしている。藤堂はそう言う原田の一面をイヒヒと笑いながら、そういえばと話に割って入った。
「山南さんこないだのデートどうでした」
「デート?」
「そう、非番の日に出かけてたじゃないですか」
その日は八番隊が日勤で、警邏中だった藤堂はテラスの或るレストランに入る山南を見た。暑苦しそうな頭をした男が愉快そうに一人で喋繰りながら山南の隣に居た。あぁいうタイプが好みなんスか、藤堂は未だに盛りの多い白くまを食べながらそのときのことを思い出す。山南は見てたのかぁと笑った。
「意外だなァって、あれって山南さんの」
原田は野暮な事言うなと手元が疎かになった藤堂の白くまをかっこんだ。ヒデェ、原田さんひでぇよ、と藤堂は皿を取り返そうとするが、野暮な事言ってんじゃねぇよと藤堂の頭をはたいた。
「なァ山南」
「原田君、おまさちゃんとその後進展した」
勢いよく白くまを噴出す原田の口から虹が見えた。助け舟を出したつもりだったのにと思うが、山南はあれは同門の男だよと訂正した。藤堂は、原田の抜け駆けをなじった。山南は愉快そうに声を立てて笑う。陽炎が立つような通りを眺め、二人に言った。
「さァて、仕事に戻ろうか」
ごちそうさんでしたと器を置き、すぅっと斜交いの屯所の門を指差した。藤堂と原田は顔を上げる。一瞬で、暑さが引いた。
「あっちでこわぁい鬼ィさんがじぃっと睨んでるよ」
作品名:【捏造】 真選組! 作家名:クレユキ