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このまちにこのちかくに

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 そのサビシイという気持ちは、たしかに新体操に対する未練だ。たしかに新体操が大好きで大好きでたまらない、なのにまるでぷるぷる震える小鳥のように鳴きさえしない、僕の心をこれから揺り動かし続けるだろう細微な振動だ。
「土屋?」
 名前を呼ばれて、自覚のないままつい木山さんの体をじっと見詰めていたってハっとした。
 どうした?と問う木山さんの目線には優しい気遣いが浮かんでいて、僕はぶんぶんと手を振った。うわ、うわ、僕ってばすごく失礼だったかも。
「あっ、その、すいません。つい、あの、木山さんの体、絞られたなぁって、じっと、見ちゃって」
 じっと見ちゃったことが失礼なんじゃないかっ、と頭の中で自分で自分にツッコミを入れる。だけど僕は木山さんという人間に対して、あんまりどんなことでも誤魔化しとか、したくないと思えてしまうので正直な言葉しか出てこない。本当のことを言ってるし、もう、笑顔を向けた。
「木山さん、かっこいいなぁって」
 いろいろな部分を省略して言っちゃったかもだけど、本心しか言ってないし。と思ったんだけど、木山さんは唐突にそっぽを向いた。
「木山さん?」
 顔を覗き込もうと追っかけてみると、木山さんを自分の口元を掌で覆って、もう片方の手はこっちに伸びてきて、また僕の頭を掻き混ぜた。さっきよりもいささか乱暴な手つきだ。僕の顔はカクカク下を向かされて木山さんから視線が外れる。
 怒らせちゃったかな?
作品名:このまちにこのちかくに 作家名:チャア