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刺青の聲〜タイトル未定〜

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まだ雨が降っていない日だった、あの日は――

彼女は思い起こしていた。
まだ"あの人"が生きていた頃のことを。

夏が来ていないのに暑いくらいの快晴がまぶしい日差しを零していた。
なのに彼女の肌は焼けることもなく。
彼が「レフ板のようだね」と形容した白さを保っていた。

初対面でそれを言ってのけたのだ、彼は。

二人を対面させた雛咲真冬は神妙な顔をしてこう言った。
「たぶん麻生さんは褒め言葉のつもりで言ったんだと思う」

それを受けて彼はにこやかに言い放った。
「別に褒めてないよ?」
「――私はまだ麻生さんのことをよく知らないですが――悪い人じゃないと思う、多分」
真冬は表情を動かさない。

これが彼女たちの出逢いだった。

彼は、麻生優雨と名乗った。
優しい雨――
彼女にはその名前の意味がまだ理解できなかったとき。

雨も降っていなくて。
優しさもまだ知らなかった。
あのとき――

この最悪とも言える――最悪と言ってしまうと語弊があるのだが。
出逢いが彼女にもたらしたものについては、追々(気が向いたら)語るとして。

どうして彼女と麻生優雨が出逢うことになったかというと。
どうして彼女が麻生優雨と出逢ってしまったかというと。
後から思い起こしてみれば余計なことをしたのかもしれない。
二人の出会いを紡いでしまった男がいた。

雛咲真冬と懇意の男性作家(ここでは仮にK氏としておく)が
麻生優雨と親しく、本の編集員をしていた彼をK氏はフリーライターとしての"つて"で
彼女に仕事相手として紹介したのだった。

いけない、語弊があった。
実際に紹介したのはK氏ではなく雛咲真冬である。

K氏ではなく真冬が紹介することになった経緯については語っておこう。
彼女を優雨に引き合わせる前日のことだ。
真冬の家に書簡が届いたらしい。
文面はこうだ。
「取材で山籠もりをすることになった。明日はいけない。真冬頼む。 螢」

以上だ。
簡潔というべきなのか。
単純と記すべきなのか。
彼女には分からない――

K氏にとっては幸いなことに、以上の話を見聞きしたことによって
彼への心証が変化することは特になかった。
彼女は寛大なのだ。

人は成長をする。

優雨と逢った数日後、約束を反故にした報い――お詫びとしてK氏は食事会を開いてくれた。