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刺青の聲〜タイトル未定〜

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フリーライターといってもまだ駆け出しなので安いお店だったが。
安いというか。
お店というか。

手料理だったが。

味のほうはこれが男性の料理かといった感じ。
よくいえばおおらか。
悪くいえば。
――寛大な語り手は詳細を語らない。

以下に記すことは優雨が語ったことである。
「塩気が多い。殺す気?」
「塩分の取りすぎは寿命を縮めるよ」
「君には繊細さが足りないよね」
「見てごらんよ雛咲くんの顔色が悪い。この料理のせいだな気の毒に」

もう一度記す。
以上のことは麻生優雨が語ったことである。

雛咲真冬は冷や汗をかいていた。
──これは暖か汗というのだろうか?

天倉の部屋は暖房がよく効いていた。
ストーブは赤く彼の背中を焼きながら頂(いただき)に捧げた薬缶を喚かせている。
正直彼も悲鳴をあげたい気分だった。

熱い。

妹と2人暮らしの自宅では暖をとるのは毛布なのだった。
暖をとれるもとれぬも己──の体温──次第。
代償は包まったが最後、身動きがしにくいこと、のみ!

電気代もガス代も必要としない
雛咲家の家宝とも言うべき品物だ。
出自は明白。

亡くなった父と母の形見。

──と、両親を偲ぶことで気を紛らわせようとしたがだめだ。
熱い。

金銭を消費し発せられたる暖がこれほどのものだとは!
彼は今からでも文明の利器を買うべきか思い悩んだ。

今まで深紅に苦労をかけてしまった。
亡き両親の代わりに妹のことは私が面倒を見ると誓ったはずなのに。

慙愧の念に駆られた彼の耳に木霊するのは──

「真冬どうした? 箸が進んでないじゃないか」

何も気がつかぬ男は真冬の食欲を心配して見せた。
真冬の顔は明らかに紅く熱を持っていた。
周囲の者も検討がついたようである。
「あつ──」
「今日は綺麗な人が同席してるから緊張しているのかな」
「なんだ真冬タイプか?」

心を投げかけようとした者の声は哀れ掻き消され。
発することを許されたのは優雨とK氏の声のみであった。
瞳を潤ませ紅潮した真冬の顔は。
言われてみれば淡く浮き立つ恋心のそれと言っても差し支えがないのかもしれない。
それが乙女の顔ならば絵になったことだろう。

残念ながら雛咲真冬は男であった。
正しくは苦悶に歪むと表現すべきその表情は。
「惚れたのか!? 惚れたのか!?」
K氏が興奮すべき表情ではない。