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砂糖たっぷり大トロ二人前

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 学校帰りに喧噪に巻かれることが定番となってきた。
 最初は人混みそのものが苦手だった自分がよくぞここまで平気なったものだと帝人は妙に感心する。
 正確には人混みを平気になったわけではない、慣れてしまっただけだ。それに加えて帝人には目的が出来てしまった。
 この喧噪に巻かれても、少々怖い目に遭ってでも果たしたい目的が。
「――そんなキョロキョロしてたらこの間みたいに電信柱にぶつかるぞ」
 左隣にいる正臣からそんな忠告を受けた帝人は「あ、あれはたまたまだよっ」と顔を赤らめる。
「たまたまでぶつかるのが間抜けだって言うんだよ。――分かっててぶつかったらただの危ない奴だろ」
 もっともなことを言われてしまい帝人は反論できない。
 あの日も、今日も杏里が一緒でなくて良かったと帝人は思う。正直あそこまで間抜けな姿を見せたくはない。何というか男の意地というかプライドの問題だった。
 だが、帝人には杏里よりも更に醜態を見られたくない相手が居た。

 胸を張って大切だと言える人が出来た。

 初めてそう正臣に告げたとき、彼は杏里の名を上げた。が、帝人は首を振った。それに大層驚いた正臣は尚更帝人の『大切な人』に好奇心をそそられたらしく、答える間も与えず、帝人を質問攻めに遭わせた。
――どんな子だ!? 可愛いのか!? 胸は大きいのか!? 年はいくつだ!? どこの学校の子だ!? っていうか、杏里よりもその子を選ぶぐらいだ、よっぽど可愛いんだろう!?――
 どの質問も帝人には答えづらいものだった。

 まず第一に杏里と比べて、と言われても困る。何故なら帝人の大切な人は異性ではない。同性なのだ。
 その人は帝人よりも男前だし、身長も力も上で、二つ名が池袋最強。
 全ての質問に答え終えたときの正臣の表情は酷かった。
 顔面蒼白で金魚のように口をパクパクと開閉させる様は間抜けを通り越して気の毒になるほどだった。
「……お前……まさか……」
「うん。僕の好きな人は静雄さんだよ」
 ノオオオオオオオオオオオオオオオッ!! 正臣の雄叫びは屋上から谺した。
 そして、追い打ちをかけるように帝人から告げられた事実に正臣は驚愕のあまり、その場に腰を抜かしてしまった。


 池袋の街を歩く度探してしまう姿がある。その姿はとても目立つ。良い意味でも悪い意味でも。
 帝人が落ち着きがないのは彼の姿を探しているからだ。

 平和島静雄。
 池袋最強の男と呼ばれる彼は怪力と強靱な体の持ち主であり、その呼び名に相応しく恐ろしいまでに強い。
 住む世界が全く違う彼と帝人が知り合ったキッカケは今回は割愛する。帝人にとって大切なのはキッカケではなく、彼と知り合った事実だったからだ。

 今日もまたこうして彼を探している、その事実が帝人にとって幸せなのだ。

「だーかーらー! 危ないっつってるだろ」
 襟首を引っ張られて初めて帝人は目の前に電信柱が迫っていたことに気付いた。
「あ……」
「ったく、よくこんなドジな奴と付き合ってるよな。静雄さんも」
 正臣の呆れた口調が背後で聞こえ、帝人は恥ずかしさで俯く。
 体制を整えた帝人は再び正臣の隣に立ち、今度はちゃんと真っ直ぐ前を向いて歩く。
「ナンパも同じぐらい熱心になってくれれば俺は申し分ないけどな」
「静雄さんがいるのにナンパなんかする気になれないよ。ていうか、元々乗り気じゃないし」
「何? ナンパは浮気とか思っちゃってるわけ? 違うちがーう! それは下心があるからそう思うんだよ! 下心なく、本心で女の子と楽しくお茶がしたいって気持ちなら浮気にならないならない」
 相変わらずの正臣理論に帝人は頭を抱えたくなる。この親友には一生説得という行為は実らない気がする。

「……こんな所で何してんだ」

 頭上から振ってきた声に帝人は一気に昂揚していく。
 慌てて振り向けばサングラスにバーテン服といういつもの装いの彼が帝人の前に立っていた。
「し、静雄さんっ」
 声を裏返しながら名を呼べば、「どうした」と彼にしては幾分柔らかい返事が返ってきた。
 あからさまに表情が明るくなった親友の姿に正臣は「やれやれ」と肩を竦める。
「ん? おお、お前らかー」
 静雄の背後から現れたドレッドヘアーの男性――トムは二人を見て口角を上げて軽い調子で手を上げた。
「こ、こんばんは」
「ども」
「学校帰りか?」
「あ、はい。静雄さん達は?」
「俺たちもさっき仕事が終わったんだ」
 き、奇遇ですね! と、言う親友に「そりゃベタだろう」と正臣は苦笑する。
 学校帰りと言うには遅い時間。帝人はわざわざ静雄に会えるだろう時間を見越して池袋に残っていたのだ。しかし、正臣やトムが気付く帝人のあからさまな嘘も静雄には通用しないらしい。
「おう、奇遇だな」
 と、嬉しそうに笑う静雄を見て正臣とトムは目を合わせて肩を竦めた。

「これから露西亜寿司に行こうと思ってたんだが、何ならお前らも来るべ」
 見つめ合ったまま動かなくなってしまった帝人と静雄に――いや、この場合放置されてしまった正臣に――助け船を出したのは粋な男、トムだった。
「え、でも……」
「折角会えたんだ。どうせなら一緒に飯ぐらいしてえよな? な、静雄」
 背の高い後輩に歯を見せて笑いかければ、顔を背けて「俺は別にどっちでも……」と煮えきれない返事が返ってきた。
「じゃあ、決まりだ! ほら、お前ら行くべ!」
 手を叩いたトムは先頭に立ち、露西亜寿司へ足を向けた。
 正臣は「やった!」と調子よくトムの隣に立ち、あれやこれやと話しかけ、そして後ろに残った恋人達は顔を見合わせて。
「行くか……」
「そうですね……」
 と、何ともぎこちない会話をして歩み始めた。


 サイモンに出迎えられた四人は手前からトム、静雄、帝人、正臣の順でカウンターに腰を落ち着けた。
 注文を聞かれ、どうしようかと迷っている帝人を尻目に正臣はさっさと注文をサイモンに告げる。
「ホントお前は優柔不断だなー。こういうのは考えるな! 感じろ!」
「正臣はホント意味不明だよ。じゃあ、僕は――」
 数種類のネタを告げる。カウンターに立つ職人が良い笑顔で答えた。
 隣の静雄、トムも同じように注文をした。その際に静雄が「ワサビ抜きで頼む」と告げたことに正臣が目を白黒とさせた。
 帝人を通り越してまじまじと自身を見つめてくる正臣に静雄は眉を寄せた。
「……なんだ?」
「え、いや……その、ワサビ苦手なのかなーって」
 いくら帝人の恋人とは言え、正臣は今だに静雄の鋭い眼光は苦手だった。ドギマギしながらも思っている事をやんわりと包みながら言う。
 それに帝人も言葉を続ける。
「そういえば静雄さんってビールも苦手でしたよね。意外と子供舌なんですね」
 可愛らしい笑顔でサラリと自分の弱点をばらしたことに静雄の表情が険しくなる。正臣は思わず身を引き、怯んでしまう。
 しかし、帝人は変わらずにこにこと笑顔のままトドメの一撃を放った。

「可愛いですよね」

 正臣の背中に冷たいものが流れていく。
「お、おい。帝人、お前そんな事言ったら……」