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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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LOVE LETTER

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彼から連絡が入ったのは、健二の大学が夏休みに入る直前のことだった。
 課題のレポートを提出しに来たら、鉢合わせた教授にうっかり捕まって、論文の英訳を手伝うことになった。その作業をしている最中に、携帯へ電話がかかってきたのだ。
『しばらく日本に帰れなくなった』
 挨拶もそこそこにそう聞かされて、健二はああやっぱり、と納得した。メールやチャットならともかく、彼が電話をしてくるなんてとても珍しいことだったから、なにか大変なことが起きたか、そうでなければそんな話だろうという予感があったせいだ。
『急にチームの奴がふたり抜けたんだ。一人は身内が危篤で、もう一人は入院。ここで俺まで抜けちまうと、納期が遅れに遅れて、今度は違約金がどうこうってな話になっちまう』
 早口の説明の合間に二度もチッと忌々しげな舌打ちが混じった。それでどうやら彼にとっても不本意な事態だったらしいということがわかって、じんわり嬉しくなった健二はなるべく穏やかに聞こえるよう心がけ、月並みな言葉で彼を励ました。
「大変そうですね。無理しないで、頑張ってくださいね」
 両親はずっと仕事が忙しかったので、約束を反故にされるのは慣れていた。ものわかりのいいふりだって、子供の頃から得意なのだ。
 この夏会えないのは残念だけど、かわりに元気そうな声を聞けたんだから、差し引きしても損はなし。
 そんなふうに考えて、早めに電話を切り上げることにした。何故ならあまり長く話し込むと、うっかりわがままを言ってしまいそうだったから。なにしろ、困ったことに以前より、幾らか自分が欲張りになった自覚があったので。
 それが今日から三日半ほど前の話。

作品名:LOVE LETTER 作家名:にけ/かさね