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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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Linus's blanket

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「……つっかれたぁ」
 狭い納戸からはみだすほどぎっしりと敷き詰めた布団の上に転がると、口にしたとおり身体の芯からじわじわと疲れが湧き出すのを実感した。
「お兄さんって、いかにも普段身体使ってなさそうだよね」
「ははは…」
 隣でパソコンをいじっていた佳主馬に揶揄われても、力なく笑ってごまかすより他にない。実際、幼少の頃から運動と名のつくものなど、学校で無理やり参加させられる体育の授業以外にしたことがないのだから。
「あ、それよりさ」
 薄いのにやけに重量のある掛け布団を両手を抱きしめるようにして敷布団の上をごろごろ左右に転がっていた健二は、佳主馬がパチンと音を立ててノートパソコンを閉じるのを見て、ふと思いついて口にした。
「佳主馬くん、ほんとに僕がここで寝ても大丈夫?」
 昼間に堕ちてきた『あらわし』のせいで、健二の泊まっていた東の客間は人が寝起きできる状態ではなくなってしまった。それ以外にも被害は少なくなくて、この家に集まっていた親戚一堂は、夜は無事だった部屋へ散り散りに押し込められることになったのだ。
 そして一応は客分で、女性と同室というわけにはいかなかった健二と、部屋割りからあぶれたらしい佳主馬が、本来は人を寝かすようなところではないのだけれど、と万里子に恐縮されながら納戸を割り当てられた。
「……なんで?」
 佳主馬が怪訝そうに布団をめくる手をとめる。
「えっと、ほら、佳主馬くんって一人っ子でしょ? 側に他人がいると眠れないとかないのかなって」
「ないよ、そんなの」
 眉をひそめて聞いていた佳主馬は、何を言ってるんだといわんばかりの調子でばっさりと斬り捨て、それからふと瞬きして健二を見つめた。
「お兄さんは? 眠れないの?」
「え? や、ちちち、違うよ!」
 佳主馬のストレートな切り返しに、健二は慌てて両手をついてがばっと身を起こした。
「べつに僕が佳主馬くんと一緒で寝られないってことじゃなくて──」
 急き込んで説明しようとした言葉は、しかし健二の頭の中でもつれて絡まり、口からうまく出てこない。説明は苦手だ。いつだって数式のようにはうまく繋がらない。
 どこからどう話せばいいのか迷ってひとりでおたおたしていると、いつかのように落ち着きなって、とつぶやいた佳主馬が、そっぽを向いてばさりと片手で掛け布団を捌く。
「じゃあ問題ないよね」
「……はい。ない、です」
 本当に四つも年下か、と問い質したくなるほど淡々と結論づけ、佳主馬は足からもぞもぞと布団にもぐり込んでいく。それを見ているうちに、健二も自分が慌てたことが馬鹿らしくなってきた。
 これくらいの会話でいちいち嫌われたり呆れられたりするんじゃないかと怯えるのは、相手に対しても失礼だ。少なくともこの家の人間に、そういう度量の狭い人物はいない。……と思う。
「寝るなら電気消して」
 ふぅ、とため息をついてごそごそと布団めくっていると、隣からひとつ指示が飛んできた。振り向けば、佳主馬が枕に頬をつけたまま片目で自分を見ている。
「あ、うん」
 立ち上がり、健二は手を伸ばした。オレンジの光を灯す裸電球は、電球のつけ根の部分にスイッチがあって、健二の身長だと背のびをしなくては届かない。空が暗くなるまで手伝っていた片付けのせいか、ふくらはぎのあたりがピリピリと痺れるのに、明日は筋肉痛になりそうだと嘆くのは、内心でだけにしておく。
 パチリと音を立てて灯りが消えたとたん、あたりは真っ暗になった。光源は、明り取りから射し込んでくる月の光と、廊下の向こうのほうでうっすらと伸びている灯りだけなので、ものの形もろくに判別できない。
 なんとなく心細さを感じながらゆっくり膝を曲げて屈むと、探るように伸ばしていた手が柔らかいものに触れた。それを頼りにおそるおそる布団に尻をつけ、地面のある安定感にほっとした健二は、両手で上掛けをたぐるようにしてその中へ身を滑り込ませる。
 横になり、枕に頭を乗せる頃にようやく目が慣れて、布団がぼうっと白く滲んで見えるようになった。わずかに首をねじるように動かすと、隣の布団がこちらに背を向けた佳主馬の形にこんもりと盛り上がっているのもわかる。
 そちらを見るともなしに眺めながら、これが一年前ならこうはいかなかっただろうな、と健二はひそかに苦笑を噛んだ。じつは、佳主馬に訊ねたことはそのままかつての自分に当てはまっていたりするからだ。佳主馬の問いももし過去形だったなら、肯定するべきところだった。
「なにひとりで笑ってるの。キモイよ」
「あっ、ごめん」
 噛み殺し切れなかった声が届いてしまったのだろう。いきなりくるりと身を返した佳主馬に咎められ、健二はまた慌てて謝った。目を上げると、枕を並べているせいで、起きているときとは違ってほとんどおなじ高さにある目線に出会う。
 月明かりの下でも、佳主馬の視線がまっすぐに突き刺ささってくるのがわかった。見返すうちに、なんとはなしにさっき話せなかったことを言ってみたくなるのが不思議だ。単純に、彼となにか話したかっただけかもしれないが。そんな自分にちいさく笑い、健二はそろりと口を開く。
「さっきの話なんだけど、」
 一度言葉を切り、佳主馬の顔を見た。迷惑そうな素振りを見せられたらやめようと思った。だが、返事はないが目はしっかりとこちらに向けられており、会話を拒まれていないと感じる。ほっとした健二はその無言にほんのり勇気づけられ、知らぬうちに緊張していた肩から力を抜くと、もぞもぞと身じろぎして仰向いて、視線を天井に向けた。
「違うって言ったけど、前は僕、側に他人がいると眠れなかったんだよね」
 声が懐かしむようになったのは、それがさほど昔のことではないせいだろう。
「眠れなかったってことは、眠れるようになったんだ?」
「うん」
 語尾まできっちりと聞いてくれている佳主馬に思わず微笑みかけると、まっすぐな眼差しはぱちりと不思議そうに瞬いた。
「なんで変わったの?」
「んー……佐久間のおかげ、かな」
「佐久間さんの?」
「うん」
 ますます怪訝そうになる声音に、健二はそろりと身体をひねり、わずかに佳主馬のほうへ身を乗り出すようにした。敷布団のちょうど境目のあたりに両肘をつき、両手で顎を支える。そしてさっきまでよりだいぶ近い距離で、声をひそめて記憶を辿る。
「僕がはじめてそのことに気づいたのは、小学校の修学旅行でさ。夜、割り当ての部屋のみんなが寝たあとも全然寝られなくって。はじめは旅行に来て興奮してるのかなって思ったよ。うち、旅行とかほとんどしない家だったから。だけど次の日も同じで眠いのに寝られなくて、最終日にはとうとうダウンしちゃったんだ。それで救護室になってる部屋に連れていかれてさ、ひとりになったらとたんに爆睡」
「なにそれ」
「ほんとになにそれ、だよねぇ」
 呆れた様子の相槌に健二も苦笑で返した。
「結局、寝れば具合が悪いのも治ったし、先生たちとも緊張しすぎたせいだろうってことで、その時はうやむやになったんだけど。そのあと中学に上がってさ、入学してすぐに一泊二日のオリエンテーションがあったんだ。そこでも僕、全然寝られなくて。二度目だし、さすがにこれは変だって思うでしょ」
「変だね」
作品名:Linus's blanket 作家名:にけ/かさね