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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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Linus's blanket

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 会話の流れからいって、佐久間の意図などわざわざ訊き返すまでもなく明白だ。が、訊かずにいられないのが動揺している人間の心理というやつだろう。そして佐久間はいちいち説明する気などないらしく、手振りで健二に寝転がるよう指示をして、自身もふたたび眼鏡を外している。
(ほら、いいからあっち向けって)
(え? う、うん……)
 横になって言われる通りタオルケットを引っ張りあげながら、相手の動作のひとつひとつにびくついてしまうのは、弱みを握られたような気がするからだろうか。
(そうやって意識しすぎなのもまずいんじゃないの?)
(ど、どうだろ……うへぁっ!?)
 素っ頓狂な悲鳴を上げてしまったのは、背後でごそごそと動いていた佐久間が、話している最中に背中にへばりついてきたせいだ。
(なっ、なに……っ)
(おまえは今から俺の枕がわりね)
(ま、枕? なんで?)
 あわあわと首を捻って振り向いても、しっかりと胸に腕が巻きつけられていて、見えるのは佐久間のつむじだけだ。さすがにこれは慣れとか練習以前の距離だろう。
(佐久間っ)
 自由になる左手で後ろ手に佐久間の腰のあたりを叩くと、の肩口に顎を乗せた佐久間がようやく耳元でふわぁっとあくびまじりに答えた。
(おまえはさぁ、ひとりじゃないと眠れないって言ったけど、俺は何か抱えてないと落ち着いて寝つけないんだよな)
(へ? あっ! あの大きな枕?)
 そういえば確かにベッドを整えている時に、やたら大きな枕があった。思い出してつぶやくと、聞きつけた佐久間が首肯する。
(うん。そうそう。あれ、抱き枕)
(じゃ、じゃあそれ抱えて寝ればいいじゃん!)
(うん。そうなんだけど、ふたりで寝るとベッド狭いし、落ちそうになるんだもんよ)
(だ、だからって僕を抱えなくても……!)
 健二は声を低めながらもきっちりと抗議した。しかし背後でごそごそ身じろぐ佐久間は飄々としている。
(いいじゃん。おまえはとりあえず俺に慣れる練習ってことで、枕にでもなったつもりになれば)
(枕にって……こ、こんなので慣れないよ!)
(慣れろって)
(佐久間っ……!)
 健二がほとんど悲鳴のような声を上げても佐久間は取り合わず、逆に身体にまわした腕にぎゅーっと力を込めると、首の付け根あたりに額をつけて動きをとめた。
(おやすみー)
(ちょっ、佐久間ってば!)
 小声で声を荒げても無視を決め込んでいる佐久間は、本気でこのまま寝るつもりらしい。腹の前で組まれた手に指を立てても、寝転んでいるせいでうまく力が入らず、ほどかせることが出来ない。ほとんど体格差も力の差もないはずの佐久間にがっちりホールドされ、しばらく自由になるべく奮闘していた健二は、やがて深々とため息をついて観念した。
(……)
 なんだかひどく疲れた。精神的に。
 枕になったつもりになどなれるわけがないだろう。そんなことをぶつぶつと胸の中で呟いているうちに、恐ろしいことに最初は違和感のあった体勢が、じわじわと当たり前のように馴染んできた。くっついているところから、差のあった体温が均一になるような。
 佐久間のいう慣れるというのはこういう状態を指すわけではないだろうが、いつのまにか健二は首の後ろから聞こえる規則正しい寝息に合わせて呼吸をしていた。深呼吸のように特別深くゆったりした間隔でもないのに、逆立っていた神経が凪いでくる。
 人間の身体ってあったかいんだな──
 そう思ったのがはっきり覚えている最後の記憶だ。はっと気づくと前日家に上がる時に顔を合わせた佐久間の母親が、部屋を覗き込んでいた。
(そろそろ起きないと遅刻するわよー)
 内容の割にはのんびりした声をかけられ、自分に遅れて佐久間がごそごそと起き出す。最初に手探りで眼鏡をつかみ、視界を確保してから健二に顔を向け、そうして一拍おいてから、おはよう、とへらりと笑った。
「──それからお互いの家に泊まりに行ったり来たりするようになって、そのうち教室とか部室とか、佐久間がいるとこではほんとに平気で眠れるようになっちゃって」
 抱き枕にされたのはあの時だけだったが、同じ部屋で寝泊りした回数は、もう到底数え切れない。はじめは緊張の糸が途切れた瞬間、意識が途切れる感じで短時間眠れるだけだったのが、いまではすっかり熟睡できる。あまり張しすぎると寝つきの悪いことはあるが、教室や外での居眠りもばっちりだ。最初に佐久間の家に泊まった翌朝、気づくとバスの中で佐久間が自分に寄りかかって眠っていて、そのぱかっと口を開けた寝顔があまりに気持ちよさそうだったからかもしれない。
 おかげで二年になってクラスが別れたあとも、どこでも寝起きできるようになったのだと説明しようとしていると、ふいに目の前でむくりと佳主馬が起き上がった。
「へ? 佳主馬くん?」
 予備動作がまったくなかったので、健二はひどく驚いた。胸をどきつかせながら片手をついて身体を起こし、矢継ぎ早に訪ねる。
「ど、どうしたの? トイレ?」
「……」
 しかし佳主馬は無言の膝立ちで寄ってきて、中途半端に起き上がった健二の肩を押した。なんだなんだと思っているうちに、ごろんと仰向けに転がされて頭が枕に沈む。そのうえさらに両手でぐいぐい押され、壁際へ身体が寄せられる。
「ななななに?」
 意図の読めない行為ほど恐ろしいものはない。たとえ相手が自分より身体の小さな中学生でもだ。
 動揺のあまりどもりながら、とにかく目的を聞こうと頭を持ち上げると、視界を遮るように布団が捲られて、隣に佳主馬が滑り込んできた。
「かかか、佳主馬くんっ!?」
 驚いてひっくり返った声を上げると、細くて骨っぽい、そのくせ熱の塊のような身体がぎゅっと胸のあたりにしがみついてくる。
「佐久間さんいないし、眠れないかもしれないでしょ」
「えっ? やっ、いまじゃ大体どこでも平気になったんだって!」
「大体じゃわからないじゃん」
「えっ、や、大丈夫だよ……!」
「うるさいよ」
「うううるさいって……」
 そんなあなた。
 うろたえまくって声を張り上げると、静かに一喝されて健二は絶句した。一体誰のせいでうるさくしたと思っているのか。
 反応に困って黙ったまま視線を下げると、佳主馬は脚まで使って猿の子供のようにますます強くしがみついてきた。やろうと思えば実力行使で引っぺがし、放り出すことも可能だろう。だが、実際そうするには躊躇われるくらい、佳主馬の手脚には力がこもっている。
 彼はところどころ年齢より大人びたところがあるので、健二の話に気を遣ったのかもしれない。それにしては痛いぐらいの力加減だったが、この体勢はたぶん好意のあらわれで。
「……ほんとに大丈夫なのに」
 そう考えるとなんだか胸がくすぐったくて、肩から力を抜いて白旗を掲げた健二は、ごそごそと身動きして自分からも佳主馬の身体を抱えるようにした。すると、身体を締めつけていた力が緩んだので、どうにか左腕を拘束から引き抜き、きっと夜中に暑くなって蹴り飛ばすのだろうなぁ、と内心で苦笑しながら、佳主馬の身体の上にもしっかりと布団をかける。
「おやすみ、佳主馬くん」
「……おやすみ」
作品名:Linus's blanket 作家名:にけ/かさね