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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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Linus's blanket

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 背中合わせになった佐久間もしばらくの間ごそごそと身じろぎしていたが、健二がじっと息をひそめていると、そのうち動きをとめて規則正しい寝息を漏らしはじめた。自分も眠れないものかと目を閉じていた健二は、一時間ほどが過ぎたところでどれだけ待っても意識が遠ざからないことに落胆して、大きく嘆息してそろりと起き出す。
 とたん、背後の気配が大きく動く。
(枕が変わると寝れないとか?)
(うわっ!?)
 大声を上げそうになって、あわてて両手で口を覆った。今は真夜中だ。しかもここは他人様の家で。
 息まで止めて視線を向けた先で佐久間はのそりと起き上がると、慣れた様子でヘッドボードを探って部屋のあかりをつけた。いきなり明るくなったせいで、目が驚いていた。ぱしぱしと忙しなく瞬きを繰り返していると、向かいで佐久間がため息をついた。何とか明るさに慣れた目を向ければ、うつむいて欠伸をしながらぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜている。眼鏡をしていない佐久間というのは、見慣れなくて変な感じがする。
(えっと……、僕が起こしたんだよね?)
(起こしたっつーか、起きてたっつーか、ずっと横でため息つかれてたら、気になって寝付けないって)
(ごめん……)
 向かい合って黙っているのが居心地わるくて自分から切り出したものの、気まずさが増しただけだった。こんなことなら先に白状しておけばよかった。まさか一緒の布団で寝るとは思わなかったのと、そうなってからも佐久間がさっさと寝てしまうだろうとたかをくくっていたのが敗因だ。
 うなだれた健二は、腹をくくってじつは、とおずおず切り出す。
(なんか僕、近くに人がいるとダメ、で)
(は? ダメってなにが)
(えーと、……寝れないの。僕、学校でも居眠りしたことないじゃん)
(あー? そういやそうだっけ。おまえ、どんなに遅くまで起きてても、次の日ちゃんと授業聞いてるもんな)
 はじめのうちは怪訝そうな表情をしていた佐久間だが、記憶を遡るように遠い目をすると、ぽんと手を打った。きっとくそ真面目な奴だと思われていたのだろうと、健二はちいさく嘆息する。
(だから、寝たくても寝られないんだって)
 そして、秘密にしていたわけではないが、これまで話す機会も必要もなかったせいで、誰にも聞かせたことのなかった話をはじめて他人に打ち明けた。家族さえ知らないのに──そう思うとなんだか変な感じがする。
(なんだよ、それ)
 聞き終わえた佐久間は、それほど驚いた様子は見せなかったが、へぇー、と鼻を鳴らすあたりどことなく機嫌が悪いようだった。
(なにって……なんでそうなったとか、そういうの? 僕のほうが知りたいくらいなんだけど)
(いや。つまりさ、小磯はここに俺がいると寝れないってことだろ?)
(えっ)
 それは確かにそういうことなのだが。
 そういう方向に話が進むと思っていなかった健二は、すこし慌てて身を乗り出した。
(やっ、ちが……いや、そうなんだけど……でっ、でもべつに佐久間がダメっていうんじゃなくてっ! 誰でもだし!)
(誰でもって、親でもかよ)
(うん)
 本当のことなの躊躇なくでこっくりとうなづくと、眼鏡がなくてよく見えないからか、眦のあたりを指先でこすっていた佐久間がきょとんと動きをとめた。
(へ?)
(夜中に帰ってきた母さんが、たまに部屋のドア開けたりするんだけど、それで僕目が覚めたりするし)
(おま……どんだけ重症だよ)
(重症って、そんな病気みたいな言い方するなよ)
(いや、病気っつーか、神経質すぎるでしょ)
(やっぱそうかな……)
 健二にだって自覚がないわけではない。日常生活に支障がないから見て見ぬふりをしているだけで、理由を突き詰めるなら専門医にかかる必要があるだろうということくらいは漠然と理解している。
(そうかなって──)
 絶句した様子の佐久間はしばらく考え込み、ややあって指先で頬を掻いた。
(自分でも良いとは思ってないわけだ)
(そりゃあ……!)
 特別排他的な思考があるわけでもなし、治るものなら治ればいいとは思っている。ただ、治さなければ日々困るほど切実な問題ではないから、積極的になれないだけだ。そして、そのこと自体が自分の内気さや自信のなさを体現していると承知しているから、健二はいたたまれない。膝の上にかかっているタオルケットに手をのばし、そわそわと握ったり離したりを繰り返すのも、耳に痛い言葉を聞かされるのが怖いせいだ。
(んじゃあ、)
 佐久間がのんびりと口を開くのに、健二は思わず身を竦めた。しかし降ってきたのは予想とは違う台詞で。
(今日のところは俺が出てくわ。小磯はここで寝ろよ)
(えっ? だ、だだダメ! それはダメだって!)
 佐久間が眼鏡をかけ、ばさっと片手で上掛けをめくってベッドから降りようとするのに、健二はあわてて目の前の腕に飛びついた。客用布団が用意できなかったと言っていたのだから、この家のどこかの床で寝るのに違いない。そんな懸念があったから、今の今まで黙っていたというのに。
(いや、ダメって……だっておまえ寝れないんだろ)
(そ、それはそうだけど……)
 基本的に健二は嘘やごまかしが苦手だ。適当に取り繕うなどうまくできた例がなく、小さな頃から要領が悪いと言われ続けている。それはいまだって健在で、引き止めたものの言葉が続かず、うぅ、と唸るばかりだ。
 佐久間がアア間の上でため息をつく。このままでは本当に出て行ってしまう──そう思った瞬間、健二は必死に言い募っていた。
(ね、寝るっ! 寝るから!)
(……)
 あきらかにこれ以上ないほどわかりやすい方便だったが、心情的には本気だった。そんな必死さが伝わったのだろう。佐久間は自分にとりついた健二をしばらく複雑そうな表情で見下ろしていたものの、やがてふぅ、と肩で息をしてベッドの上に戻ってくる。
(詰めて)
(う、うん)
 腕に取り縋ったまま膝でずるずるとシーツの上を後ろに下がると、佐久間はあらためて健二に向き合うように胡坐をかき、空いているほうの手でがしがしと後ろ頭を引っかいた。
(……おまえさー、そんなんで彼女とかできたらどうすんの?)
(は? えっ? 彼女っ!? なな、なんで?)
(そりゃあ、お友達の俺よりもっと身近な他人だし)
(あ、そうか。ええと、うーん……そんなの考えたことないかも。ど、どうするんだろう……?)
 いきなり飛んだ話題に健二はおろおろとうろたえる。
 べつに女の子を可愛いと思わないわけではないし、それなりに年頃なので興味がないわけでもない。だが、具体的に特定の誰かと親しくなったり、目の前の佐久間以上に距離を詰めることなど想像したことがないので、いくら考えてみても現実味がなく、まったくイメージすらわかない。
(どうするんだろうって……)
 おまえなぁ、と佐久間は首を前に倒して盛大にため息をついた。
(そんなの克服するしかないだろ)
(こ、克服?)
(そう。克服。ほら、俺が練習台になってやるから)
(れれれ練習台ってなんの)
作品名:Linus's blanket 作家名:にけ/かさね