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命知らず、向こう見ず

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「おめえは本当にイノシシだな」
「ディクソン」
抜けるような青空の下に広がるコロニー9。そこを守る防衛隊の訓練場にて、ひとりの男が特訓に励んでいた。
長く黒い髪が汗で顔にべったりと張り付く。その鬱陶しさも全く気づいていなかったようで、今更その髪をかきあげた。
どれ程までに特訓に夢中になっていたのやら。そんな彼を遠くから暫く見守っていた金の髪の男は、いてもたってもいられなくなってとうとう声をかけた。
「利き腕がどうにもならねえその状況で、よくもまあそこまでやれるもんだ」
言いながら金の髪の男は……ディクソンは、黒髪の男、ダンバンの腕を指差した。その先にあるのは、ぶら下がっているだけの彼の右腕。
今から一年前。この巨神界は、機神界の襲撃を受けた。その際、必死にその侵攻を食い止めた者達がいた。その中でも特に功績を挙げ、今となっては英雄とも謳われるように
なった者がいる。それが、ダンバンだ。
ディクソンもダンバンと共に戦場を駆け、同じくいくつもの功績を挙げ、英雄のひとりと言われている。
しかしダンバンのその功績には大きな代償が伴った。彼は機神を食い止める為、並の人間には到底使いこなせない剣、モナドを振るっていた。
幾人もの人間がモナドを握り、そして挫けた。その中でダンバンはモナドを掴んだ。
そんなダンバンでも、やはりモナドの暴走は抑えられなかったらしく、モナドの力に押され、利き腕の自由を失った。彼の右腕がこうなってしまったのはそんな理由だ。
当時は全身も上手く言うことを聞いてくれないまでに疲弊していたのだ。ここまで回復したのは逆に凄いとも言えるかもしれない。
そんなダンバンが今、左腕だけで剣を振るっている。
「右腕が駄目なら、左腕を使えばいい。そうすれば俺は、まだ強くなれる」
「……はー……」
ディクソンはため息をついた。つかずにはいられなかった。
「そうまでして、シュルク達を追いたいか」
「当たり前さ」
それは、つい先日のことだった。
一年前のダンバン達の抗戦空しく、機神兵はまたしても巨神界へと侵攻した。このコロニー9の人々を何人も何人も喰らった。
その中にいた謎の顔つきの機神兵。その者によって、ダンバンはフィオルンという大切な存在を亡くした。
ダンバンがある程度成長してから生まれた妹。幼くして両親を機神兵によって亡くした彼の、唯一の肉親だった。
彼が大事と思う者は他にもいた。シュルクとライン。あの襲撃のあと、彼らはコロニー9から旅立った。フィオルンの仇をとるために。
シュルクは、ダンバン以上にモナドを自由に操った。まるでモナドに選ばれた者であるかのように。
「あいつらがやろうとしてるんだ。俺だけ自宅でゆっくり療養、なんてこと出来るわけないだろう」
「そんなもんかねえ」
面倒臭そうにディクソンが後ろ頭を掻く。
「それでなあ、ディクソン。折り入って頼みがあるんだ」
「あ?なんだお前にしては珍しい低姿勢だな?」
珍しいは余計だ、と言ってから、ダンバンは改まって言葉を続ける。
「武器を、作って欲しいんだ。左腕だけでも振るえるような武器を」
思わずディクソンは顔を顰めた。確かに自分は武器作りも得意だ。これまでいくつもの武器を作ったし、ダンバンにも武器をやったこともあった。
しかし突然の、そしてあまりにもぶしつけな頼みにまたしてもため息をつく。
「もう一度言わせてもらう。本当にイノシシだな、お前」
「そんなこと、昔からよくわかってるだろ?今更じゃないか」
それをわかってて今まで一緒にいてやったのだ。しかし改めて、この男の向こう見ずさを思い知る。
「前に進もうとするのはいいけどよ、時には後ろを見るのも大事だぜ?いつか、背後から何があっても知らねえからな、俺は」
「そういう時に背中を任せられるのがお前だろ、ディクソン」
「おうおう、言ってくれるじゃねえか」
心の底から信頼しているように見える。その表情がどこか、眩しかった。ダンバンには気づかれないよう、ディクソンは参ったという感情を内に出す。
(モナドの使い手でもねえのにモナドを操り、そしてモナドに拒否されたというのにまたモナドと行動を共にするかい、ダンバンよ)
よぎった思いは、ダンバンには届かない。
ダンバンの剣の腕前は、目を瞠るものがある、とディクソンは常々思っている。
早々に左腕でも剣を振るえるようになるだろう。現に先程の特訓も、特に苦難している様子もなかった。
彼が片腕での剣技を身につけるのも、時間の問題か。
「で、どうなんだ?作ってくれるか、武器」
「いいだろう、この俺がイノシシにぴったりの良い武器を作ってやるよ」
「助かる、ありがたい」
「しかし、報酬は弾んでもらうぞ?ビタ一文たりとも負けてやらねえからな」
感謝して笑うダンバンに、すかさずディクソンはぴしゃりとそう言い放った。
途端、その表情が苦いものへと変わる。
「守銭奴め、病人相手に容赦しないな」
「どこが病人だって言うんだ。ぴんぴんしてるじゃねえか」
「ああ。とっとと療養生活からおさらばしたいもんでね」
そう言いながら軽く剣を振るう。その腕には、利き腕ではないとはいえ少々の傷が目立った。
まだ一年前の傷は完全には癒えていないらしい。当然のことか。
それでもまだ剣を取ろうとするダンバン。ディクソンがイノシシと評するのにも納得のことだ。
「それじゃあ俺は武器の素材探しにでも、ちょっくらその辺ぶらついてくるとするかね」
その間にもっと鍛えておけよ、というディクソンの言葉に、ダンバンは力強くああ、と頷く。
ひらひら手を振りながら訓練場を去ろうとしたところ、ぴたりとディクソンは足を止めた。ああそうだと何かを思い出したように。
「ダンバン、コロニー9を出るときはひとりで行くんじゃねえぞ」
「?どうしてだ」
背をダンバンに向けたまま、ディクソンは言う。不思議そうに訊ねる彼の気配を感じながら、ディクソンは言葉を続ける。
「お前のサポートをしてやるからに決まってるだろ。お前みたいなイノシシ、ひとりで行かせたらどこで野垂れ死ぬかわかったもんじゃねえ」
振り向いてダンバンの顔に指先を突きつける。的を射た言葉に、ダンバンはぐうの音も出なかった。
ディクソンの指摘はいつも鋭い。そしてその指摘に幾度となく助けられている。
「あいつらの後を追うときは、俺も一緒だ。シュルクを放っておけねえしな」
「流石シュルクの保護者だな」
「ハン。本当なら俺ひとりで行くつもりだったのによ」
「何だ、追いかけるつもりなのはお前も一緒だったのか」
ダンバンの言葉に、ディクソンは当たり前だと答える。口は悪いが、確かにシュルクのことを思ってやってるんだな、とダンバンは実感した。
「あいつは、俺が見ててやらなきゃなんねえ……」
「?」
「いや、なんでもねえ」
ディクソンの言葉の意図が、ダンバンにはよくわからなかった。そのままの意味で受け取って良いのだろうが、どこか含みのある物言いであるようにも感じられた。
今はまだ、知る由も無いが。
「さて、今度こそ俺は行くぜ。せいぜい頑張りな、イノシシ」
「おう。お前の作る武器に見合う強さを身につけてやるさ」

ディクソンの背中が見えなくなるまでダンバンはそれを見つめていた。見送っていた。
作品名:命知らず、向こう見ず 作家名:梗乃