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ささいな誤解とエトセトラ。

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3.





「……どーしよー、リボーン!」

一週間経った雨の晩。
ツナは自室でリボーンに泣きついていた。
「獄寺くんが、もう一週間、オレにぴったりなんだ! 打ち明ける暇がなくて、山本はオレが女の子だって勘違いしたままだよ!」
妙なカンが発達していて、そのうえそのカンが妙な妄想へと成長していく傾向のある獄寺は、訪問時のツナと山本の不思議な空気を見逃しはしなかったのだ。
「なんだ、ツナまだ白状してなかったのか。ほんとにダメツナだな」
赤ん坊は、つぶらな黒目を愉快そうに輝かせた。
「わ、わるかったな! どんどん言いづらくなってんだよ、山本、すっかり信じてて!
一昨日は、社会科資料室から、日本地図運んでたら、重いからっつって持ってくれるし! 
昨日は、男子連中が下ネタ話始めたら、自然に話題変えてくれるし! 
今日なんか、体育で着替えしてたら、さりげなくクラスの連中から見えないようにかばってくれるし! 
申し訳なくて申し訳なくて、オレっ……いまさら言えねー! オーマイガーッ」
一週間の出来事が走馬灯のように脳裏をかけめぐり、ツナはおもわず頭を抱えた。
「ちょうどいいじゃねーか。この機会に、女をどう扱えばモテるか学び取れ」
「それどころじゃねーよっ。でもさ、言えなかったオレも悪いけど、山本だって冷静に考えたらわかりそーなもんだろ!? だって夏には一緒に海行ったり、プール授業あったりしたんだぞ! 死ぬ気弾撃たれたらパンツだけになるし! どー見たって胸とかないんだから、オレは!」
「よっぽど貧乳女だとおもわれてんだろ」
「あっはっは、なるほどー…って、そんなんで納得いくかよ!」
ノリツッコみを披露するツナに、リボーンは「にやり」と笑った。
「ま、しかし一理あるな。冷静にかんがえりゃ、おまえが女じゃねーことくらいすぐわかる。それができなかったってことは、山本も冷静じゃなかったってことだ」
なにか示唆しようとするようなりボーンの言葉に、ツナは瞬きをして、それからぽんと手を打った。
「あー…オレの女装がよっぽど気持ち悪かったんだな」
「………」

リボーンは肩をすくめて話題を変えた。
「ともかく、このまま女と勘違いされ続けるか、白状するか、だ。どっちが嫌か、選ぶしかねーな」
「どっちが嫌もなにも……誤解は解くしかないだろー? 打ち明けるチャンスがないから困ってんじゃないか」
「ダメツナ、ちったあ頭使ったらどうだ? チャンスは作るもんだぜ」
リボーンは人差し指の先でトントンと自分のこめかみをつついてみせた。
「電話でもすりゃあ、すぐだろうが」


外ではさあさあと雨が降っている。
電話口に出た山本は、「話だったら、実はオレもあんだ」と、明るく言った。
「けど、悪い、今日はちょっと店バタバタしてて、オレもかりだされてんだよな。明日じゃダメか」
「あー、そーか、ごめん」
ツナは、店からの上がり口に置いてある山本家の電話をおもいうかべた。そう言えば山本の背後がなにやらにぎやかだ。
「忙しいとこ、ごめん。じゃあ、どうしようか? できれば人に聞かれたくないんだけど」
「ツナも?」
山本の声が弾んだのは気のせいだろうか。きっと背後がやかましいので声を張り上げただけだろう。
「はは、実は、オレも。そんじゃオレ、明日、部活休むわ。放課後どっかで、どう?」
「え? いいよ、そんな部活休んでまで――」
「一日くらい大したことねーって! あ、やべ、親父呼んでる。そんじゃ放課後、えーと川原で! 明日だけは二人きりだぜ!」
わ、わかった、とうなずくと電話は切れた。
ツナはぷーぷーと間の抜けた音をさせている受話器を片手に、小首をかしげた。二人きりでなければならない話とはなんだろうか。
「……山本、もしかして」
受話器を戻しながら顔を輝かせる。
もしかして、誤解に気がついたのだろうか?
しかし、すぐに首を横に振った。それならば、わざわざ部活を休んでまで時間を作ろうとするだろうか。はっきり言って、休み時間にでも、屋上あたりでこそこそと会話できれば足りるのに。
となれば、おもいあたることは、ひとつ。
――ツナはあおざめた。


翌日の放課後。
当たり前のごとく迎えに参上した獄寺へ、ツナは、「補習がある」と一生懸命考えた口実を告げた。
「それじゃ、廊下でお待ちしますよ!」
「い、いーからいーから! 先帰ってて! あの、待たせてるとおもうと申し訳なくて集中できないからさ!」
「そーですか、やはり十代目、お優しい」
こうして、なんにでも感動する獄寺を追い返し、首尾よく一人で帰宅の途につくことに成功した。